男女共同参画学協会連絡会

Japan Inter-Society Liaison Association Committee for Promoting Equal Participation of Men and Women in Science and Engineering (EPMEWSE)

科学・技術系学会・協会における学生会員と一般会員の女性比率に関する報告

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科学・技術系学会・協会における
学生会員と一般会員の女性比率に関する報告
(2005年10月・男女共同参画学協会連絡会調べ)

目次

■はじめに■

 科学・技術系における学問分野ごとの男女共同参画の現状を把握するため、男女共同参画学協会連絡会に加入している39学協会、未加入の11学会について、学生会員と一般会員の女性比率の違いを調べた。

 ここで、学生会員とは学会会員の中で大学院在学中の人を指し、一般会員とはそれ以外の人を指す。多くの学会では、非会員でも参加費さえ払えば学会に参加して研究発表を聞くことができる。しかし、自らが演者として研究発表を行うには、学会会員として登録していること(=会費を支払っていること)が条件となる場合が多い。つまり学会会員は、単にその学問分野に従事している人全体ではなく、その中で自らが研究発表を行うほど主体的に研究に従事している人の集団であると言える。

 たとえば学生の場合、指導者や先輩の研究の一部を手伝っている状態の学生は、学会に参加はしても会員にはなっていない場合が多く、自分自身の研究成果を発表するレベルに達して、初めて会員に登録する場合が多い。また、学生会員でも一般会員でも、研究をやめたり、その学会と関連の薄い分野に転職した場合などは、学会の会費を払い続けるだけのメリットがないので退会する場合が多い。

 従って、学生会員と一般会員における女性比率は、「ある専門分野を学ぼうと志し、かつ研究者として一定のレベルに達している大学院学生の中での女性の比率」と「その分野でプロの研究者として主体的に研究活動を行う、何らかの職を得ることができた人の中での女性の比率」に、概略対応すると考えられる。

 男女共同参画が完全に実現できているのならば、前者と後者の女性比率はほぼ等しくなるはずである。そこで、「学生会員の女性比率/一般会員の女性比率」の数値を『格差』という言葉で表し、「プロの研究者としての女性のその分野への定着しやすさ」を示す一つのバロメーターと考えて、比較を行った。

■表■

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 まず、調査に協力いただいた学会をいくつかの大まかなグループに分類し、学生会員の女性比率が高い順に並べた。それぞれのグループの中でも、各学会を学生会員の女性比率が高い順に並べた。経時的なデータが提供いただけた学会については、過去のデータを斜体で示した。
(*印は、学協会連絡会に加盟していないがデータを提供していただいた学会を示す。)

 会員の女性比率は、5%未満、5~15%、15%以上、の3 段階に分類して濃淡で表示した。色が濃いほど女性の比率が低い。(学生会員を分けて集計していない学会は、-で示した。)

 学生会員と一般会員の女性比率の格差は、2 倍未満、2~4 倍、4 倍以上、の3 段階に分類して濃淡で表示した。色が濃いほど格差が大きい。

■図1~図6■

 表に示したデータのうち、比率と格差に関する項目を抜き出して図にまとめた。経年データがある学会については、最新の年度のものを用いた。また、解析した全学会を、「生物系(理学生物系・医薬系)」「理学非生物系」「工学系(工学系・情報系・建築系)」のグループに分けた。なお、学生会員の女性比率が分からなかった学会と「女性科学者の会」は、作図に加えていない。

  • 図1:それぞれの系における平均女性比率
  • 図2:学生会員および一般会員における女性比率<理学生物系・医薬系>
  • 図3:学生会員および一般会員における女性比率<理学非生物系>
  • 図4:学生会員および一般会員における女性比率<工学・情報・建築系>
  • 図5:各学協会における女性比率の格差
  • 図6:各学協会における女性比率の散布図。横軸が学生会員、縦軸が一般会員の女性比率。
    比率の格差がない(1 倍=45 度の斜線)、格差1.5 倍、2 倍、4 倍に相当する線を示した。
    比率の格差が大きな学会ほど、傾きのゆるやかな線の上(図の下のほう)に位置することになる。

(*図番号をクリックすると別ウインドウでグラフが表示されます。)

■読み取れる傾向■

 生物系では、多くの学会が一般会員で10~20%、学生会員では30%前後であり、女性の比率が比較的高い。また、学生会員と一般会員の女性比率の格差も、2 倍以下の学会がほとんどである(表, 図1, 2, 5, 6)。

 学生会員や一般会員の比率そのものは、格差の大きさとは関係が低い。たとえば、調査した全学会中で女性科学者の会を除いて格差が1.45倍と一番小さかった神経科学会は、学生会員の女性比率は20%以下で生物系では最低レベルである。生物物理学会や解剖学会は、一般会員の女性比率が10%前後と生物系では最低レベルだが、格差は1.7倍前後と小さい。これらの分野は、その分野の学問を志す女子大学院生は多くないが、その人たちがプロの研究者になれる可能性は比較的高いと言える。

 逆に、学生会員の女性比率が35%前後と最高レベルの森林学会や原生動物学会などでは、一般会員の女性比率は10%以下で、格差が4倍以上と非常に大きい(表, 図5, 6)。登録人数が少ない学会なので一概には言えない面はあるが、これらの分野では、その分野を志す女子大学院生の比率は高いのに、その人たちがその分野でプロの研究者になるのは難しいという傾向があることが考えられる。

 生物系ではいくつかの学会で、同一学会内での経年変化を比較するデータが揃ったが、これらを見ると個々の学会内での比率や格差の変化は小さく、必ずしも一貫して向上しているわけでもない。学会間、分野間での差の方がはるかに大きかった(表)。

 生物を除く理学系では、一般会員では女性比率が4~10%であり、学生会員では20%前後の天文系・化学系と、10%前後の数学物理系および一部の化学系に、二極分化している(図3, 6)。数学物理系は天文系・化学系に比べ学生会員の女性比率は半分程度だが、一般会員の女性比率には大きな差がない(表、図3)。理学系では女子学生の比率が最も少ない数学物理系よりも、女性が比較的多い天文系・化学系の方が格差が大きく、その分野を志した女子大学院生がプロの研究者になれる道が狭い傾向にあると言える(図5)。

 工学系の中では、建築学会だけが学生会員、一般会員とも突出して女性比率が高く、他の工学系とは分けて考える必要がある(図4)。工学系の学部の女性比率を集計して比較する場合、その大学の工学部に建築学科があるかどうかによって比率が大きく変わる可能性があるので、注意が必要である。(会員数ははるかに少ないが、データベース学会も女性比率が比較的高い。)

 建築学会とデータベース学会を除くと、工学系学会の一般会員の女性比率は1~2%と極度に低い。また生物系、理学非生物系に比べると、学生と一般の女性比率の格差が非常に大きい(図4, 5, 6)。

 建築を除く土木系では、学生会員の女性比率は10%程度に達しているのに一般会員の女性比率が非常に低く、格差は最大クラスである(表, 図4, 6)。機械・材料系は、学生会員の女性比率も5%前後と低いが、それに輪をかけて一般会員の女性比率が低く、格差が大きい(表, 図4, 6)。情報系も、学生会員の女性比率は理学系の数学や物理と大差ないのに、一般会員の女性比率は半分以下である(表, 図4, 6)。IT 関連分野は理系のなかでは女性の姿を見かけることが比較的多い分野だという印象もあるが、学問分野としては、男女共同参画が進展しているとは言いがたい。

■考察■

 このデータからまず分かることは、分野によって、単に女性の比率だけでなく、学生会員と一般会員の女性比率の格差に大きな違いがあることである。生物系では、女性の比率が比較的高いだけでなく、格差も小さい学問分野が多い。格差1.5倍前後に位置する神経科学会、発生生物学会、分子生物学会を始め、格差2 倍を下回るのはほとんどが生物系である。

 生物以外の理学系は、学生会員、一般会員ともに女性比率が低いため、女性が活躍していない分野だという一般的イメージがある。しかし、格差は比較的小さく2 倍の線上にあり、この分野を志した女性大学院生は男性よりはまだかなり不利であるものの、プロの研究者としてその分野にとどまれる可能性は工学系などを志望した女性に比べれば高いと推測される。女子学生の数が比較的多い化学系よりも、理学系のなかでは女性の数が最も少ない数学物理系の方が格差が小さいという点は興味深い。

 一方、工学系では、建築を除いて女性比率が低いだけでなく、格差が非常に大きい。格差が5倍を越えるのはほぼ全て工学系で、中には10 倍に達する分野もある。このように工学系では、単にその分野を志望する女子学生の比率が低い点だけに問題があるのでなく、せっかく志望した学生がプロの研究者としてその分野にとどまれる可能性が非常に低いという点にこそ、大きな問題がある。たとえば図6を見ると、工学系の鉄鋼学会、地盤工学学会の学生会員の女性比率は10%前後で、理学系の数学会や物理学会と同レベルにある。しかし数学や物理では一般会員でも女性比率が5%前後なのに対し、鉄鋼や地盤では1%程度に過ぎない。同様に、応用物理学会は学生会員の女性比率は土木学会や金属学会、電子情報通信学会よりも低いが、一般会員の女性比率はこれらの学会よりはるかに高い。

 従って、工学系には理学系に比べ、その分野の研究を志した女性がプロの研究者として職を得てゆく道を妨げる、構造的な要因がより強く存在する可能性がある。女性研究者が少ない研究分野では、「差別をするつもりはないが適任の候補者がいない」というのが理由としてよく挙げられるが、理学非生物系と工学系を比較する限り、工学系に女性研究者が少ないのは「その分野を志望する女子学生の比率が低いため」ではなく、「せっかくその分野を志望した女子学生が適任の候補者へと成長してゆく道が妨げられているため」だと言えるだろう。

 同様の問題は、理学系の中にも存在する。たとえば生物系の中にも、学生会員と一般会員の格差が3倍、4倍を越える分野がある。このような分野にも、その分野の研究を志した女子学生がプロの研究職に就きにくい構造が存在している可能性がある。

 また、もっとも格差が小さな学会でもまだ1.5倍もの差があるということは、女性の大学院生は男性に比べその分野で職を得るのがまだまだ困難であることを意味している。図6 で「格差なし~1.5倍」の範囲に来る学会が一つもないという状況が、すべての学会における今後のさらなる努力の重要性を物語っている。

 このように、一般会員と学生会員の女性比率を比較することにより、従来は見過ごされてきた問題点がかなり明らかになった。しかし、このような比較だけでは覆い隠されてしまう問題も存在する。たとえば、分子生物学会など格差が小さい分野には、大型のプロジェクト研究費などによって雇用された博士研究員(ポスドク)レベルの研究者が多い傾向がある。これらの分野では、助教授・教授レベルでは女性比率が10%を下回るにもかかわらず、ポスドクのレベルで女性比率が30%前後と高いために(分子生物学会「ライフサイエンスの分野における男女共同参画の推進に関する提言」pp. 2-3 参照)、全体としては一般会員の女性比率が高く集計され、格差が小さいように見えてしまう。

 たとえば、学生会員、一般会員の女性比率がともに最高レベルの薬学系は、格差も1.8倍と比較的小さく、問題は少ないようにも見える。しかし東京大学や京都大学の薬学部を見ると、女子学生の比率は理系諸学部中最高で、工学部の4~5倍に達するのに対し、教授や助教授には女性はほとんどおらず、その比率は工学部よりも低く全学部の中で最低レベルである。女性がプロの研究者として職を得る道が開けているのと、その中で上位のキャリアへと上ってゆく道が開けているのとは、別問題であることが分かる。

 ほとんどの学会は会員の身分・職層までは詳しく把握していないため、今回の集計ではこのような一般会員の内部における職層間の格差は捕捉できていない。今後はこのような点に着目した調査も行い、格差解消の方策を検討してゆく必要があるだろう。

■まとめ■

 今回の調査で判明したもっとも重要な点は、大学院における女性比率が同じ程度であっても、プロの研究者として活躍できる職を得られる女性の比率には、分野によって非常に大きな差があるという点である。理学系に比べ工学系、理学系のなかでも生物系に比べ非生物系、また生物系のなかでも一部の分野では、その分野の研究を志して大学院に進んだ女性が引き続きプロの研究者への道に進む際に、より大きな困難が存在する。

 どのような理由でこのような差が生じるのかは、今回の調査だけでは不明である。各分野の平均的なキャリアパス、人材育成の方法、研究職の候補者選考のシステム、出産や育児が研究生活継続に及ぼす影響の度合い、女性研究者への偏見の多寡、ロールモデルになる先輩女性研究者の数、これらの要素にも影響される女子大学院生や女性研究者自身の意識など、分野によって異なる情況が複雑に絡んでいる可能性がある。今後、各分野ごとに、より深い解析と改善策の検討が行われることを期待する。

 科学・技術分野における男女共同参画では、理系を志す女性が少ないことが要因の一つとしてクローズアップされる場合が多い。しかし研究者の女性比率が低い分野では、一律に「その分野を志望する女子学生の比率が低い」わけではなく、「せっかくその分野を志望した女子学生がプロの研究者へと成長してゆく道が妨げられている」のが大きな要因になっていることが、今回の調査で分かった。「その分野を志望した女性のどれだけが、その分野で活躍できる職に到達することができるか」という指標に着目し、この点での分野ごとの差の解消に大きな努力を払う価値があるだろう。その意味で、学生会員と一般会員の女性比率、さらに一般会員のなかでもなるべく職層を分けて女性比率を継続的に集計・公表してゆくことが、重要であると思われる。

 経時的変化を調べることができた学会では、過去10 年程度のスパンでの女性比率の増加は、さほど大きなものではなかった。従って、現在女性の比率が少ない分野では、時が経てば自然に女性比率が上がってゆくだろうと期待することはできない。分野間の差をすみやかに解消するには、より積極的な策を講ずる必要がある。

 男女共同参画をすみやかに推進する手段の一つとして、研究職職員に占める女性比率に数値目標を設定することが検討されているが、今回の調査結果を踏まえると、

1: 分野によって女性研究者の比率は極端に異なり、将来の人材の供給源となる当該分野の大学院学生の女性比率も大きく異なるので、全分野一律の数値目標では実効性が期待できない。理系をいくつかの大分野に分け、分野ごとに目標を設定するのが望ましい。

2: 大学院学生の女性比率とその分野におけるプロの研究者の女性比率との格差解消が重要な課題なので、それぞれの大分野における大学院女子学生の比率をベースにして、数値目標を設定するのが望ましい。

と言えるのではないかと思われる。

謝辞:多忙な中、数値の集計を行っていただいた各学会・協会の連絡会連絡委員と事務局スタッフの皆様に、 篤い謝意を表します。
(なお、この調査とその結果の引用に際しては、必ず「科学・技術系の学会・協会における学生会員と一般  会員の女性比率に関する報告(2005 年10 月・男女共同参画学協会連絡会)」と出典をご明記ください。)

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