男女共同参画学協会連絡会 Japan Inter-Society Liaison Association Committee for Promoting Equal Participation of Men and Women in Science and Engineering Japan Inter-Society Liaison Association Committee for Promoting Equal Participation of Men and Women in Science and Engineering

第5回 男女共同参画学協会連絡会シンポジウム 報告書

 

 

第5回男女共同参画学協会連絡会シンポジウム
報告書

 

真の男女共同参画へ向けて意識を変えよう!

  

開催日:2007年10月5日(金)
会場:名古屋大学 野依記念学術交流館、野依記念物質科学研究館
 

 

目次

第5回男女共同参画学協会連絡会シンポジウム プログラム

  • 分科会A. 「男女共同参画におけるポジティブアクション!?」
    コーディネータ 大坪久子氏 日本分子生物学会・東京大学、美宅成樹氏 日本生物物理学会・名古屋大学
  • 分科会B. 「次世代の女性研究者育成の取り組み」
    コーディネータ 小舘香椎子氏 応用物理学会・日本女子大学、武田譲氏 名古屋大学
  • 分科会C. 「男女共同参画における地域連携・組織連携」
    コーディネータ 相馬芳枝氏 日本化学会・産業技術総合研究所、小川順子氏 日本原子力学会・日本原子力発電(株)
  • 全体会
    • 司会進行 小舘香椎子氏 応用物理学会・日本女子大学
    • 主催者挨拶 美宅成樹氏 日本生物物理学会会長・名古屋大学教授
    • 来賓挨拶 板東久美子氏 内閣府男女共同参画局局長
    • 歓迎の辞 平野眞一氏 名古屋大学総長
    • 特別講演 内永ゆか子氏 日本アイ・ビー・エム技術顧問
    • 『科学技術分野におけるダイバーシティーの考え方』
    • パネル討論  「真の男女共同参画へ向けて意識を変えよう!」
        パネリスト 板東久美子氏 内閣府男女共同参画局 局長
        パネリスト 小畑秀文氏 東京農工大学 学長
        パネリスト 大隅典子氏 東北大学 総長特別補佐
        パネリスト 羽入佐和子氏 お茶の水女子大学 副学長、図書館長
        パネリスト 山脇良雄氏 文部科学省 科学技術・学術政策局基盤政策課長
        パネリスト 内永ゆか子氏 日本アイ・ビー・エム株式会社 技術顧問
  • ポスターセッション
  • 各種報告
    • 第2回大規模アンケート中間報告
    • 分科会報告
    • 連絡会活動報告
    • 新規加盟学会紹介
    • ポスター賞報告
  • 次期連絡会運営委員長挨拶
    中村正人氏 日本地球惑星科学連合/宇宙科学研究本部主幹
  • 閉会の辞 美宅成樹氏 第5期連絡会運営委員長/日本生物物理学会

分科会A 「男女共同参画におけるポジティブアクション!?」

(コーディネータ:大坪久子氏 日本分子生物学会、美宅成樹氏 日本生物物理学会)

分科会Aでは、「男女共同参画におけるポジティブアクション!?」と題し、ポジティブアクションとは何なのか?どのように行われるべきものなのか?ということをテーマに、以下の5名の講師の先生方にご報告をいただいた。

1.塩満典子氏(お茶の水女子大学教授)
「科学技術政策とポジティブ・アクションについて」

2.有賀早苗氏(北海道大学教授)
「ポジティブアクション北大方式、現状と展望」

3.束村博子氏(名古屋大学男女共同参画室長)
「名古屋大学における男女共同参画のためのポジティブ・アクション」

4.島田純子氏(独立行政法人科学技術振興機構企画評価部男女共同参画担当)
「JST事業における男女共同参画」

5.都河明子氏(東京大学教授)
「日本におけるポジティブアクションの可能性について」

男女共同参画社会基本法の第2条第1項によると、男女共同参画社会の形成とは「男女が、社会の対等な構成員として、自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保され、もって男女が均等に政治的、経済的、社会的及び文化的利益を享受することができ、かつ、共に責任を担うべき社会を形成することをいう」とされている。つまり、社会生活の上では、男女問わず『機会は均等に』『評価は公正に』を保証されていることになる。これを踏まえて、ポジティブアクション(PA:積極的改善措置)を考えていく必要があるとされた。

最初の塩満氏の講演では、日本における女性研究者比率が世界の先進諸国に比べて低いために、女性のロールモデルが見えにくいことが指摘されるとともに、その改善策となりうるPAが類型的に紹介された。その中には、クォータ制という極めて厳格に法制度を取り入れるものから、ゴール・アンド・タイムテーブル方式(数値目標と達成時期の設定)、プラス要素方式、仕事と家庭の両立支援・環境整備などの比較的穏やかなものまで多様な手法があるとの説明があった。第3期科学技術基本計画では、数値目標や環境整備に係る比較的穏健なPAが明記され、女性研究者支援モデル育成、再チャレンジ支援、理工系進路選択支援等の施策に反映されている。将来を見据えた議論として、各大学・機関による個性ある取組みが重要であり、多様性が高く創造的で、生活満足度の高い国際的研究環境の実現は男女問わず共通して必要であるとの発言があった。

また、有賀氏からは北海道大学で実践されているPAのお話をいただいた。これまで女性研究者の比率向上は、大学における教員人事の特殊性から達成しづらい環境となっていた。北大では平成18年度より教員人件費の管理を総定員管理から人件費総合管理に移行したことを利用し、女性教員採用に対して総長裁量の全学戦略人件費を利用したインセンティブを与えるPAを実施し、女性教員の積極的採用を大学の戦略と位置づけて取り組んでいる。この方式では、適材がいなければ必ずしも女性を採用する必要はないので逆差別にはならないと考えている。PA実施初年度であった昨年度は女性教員採用率25%を超え、掲げた数値目標「北大全研究者の女性比率を2020年までに20%に」の達成に向けてさらに努力しているところであるが、今年度以降は人件費削減に伴って教員人事件数が激減しているため、せっかくのPAも効果を発揮しにくい状況になっているとの報告がされた。

束村氏からは、名古屋大学における独自のPAを紹介していただいた。2000年の国大協が示した、「2010年における女性比率20%」の数値目標に全学で合意したが、2005年時点で達成が難しいことが予測され、全学をあげてPAの実施を進めている。このためホームページの公募人事欄の冒頭に『業績の評価(研究業績、教育業績、社会的貢献、人物を含む)において同等と認められた場合には、女性を積極的に採用する』と明文化し、曲解や誤解のないよう目的や背景についての詳細も掲載している。あくまでも、「同等の評価」の場合に女性を採用するということであるが、マスコミや他大学から大きな反響を得たとのことであった。この取組みの成果を数値として報告できるのは先になるが、PAの可能性を議論するきっかけとしたい。

島田氏には、JSTにおける男女共同参画への取組みを報告いただいた。JSTでは、活動理念の5つ目に「女性研究者等多様な研究人材が能力を発揮できる社会の実現に努めます」とした項目が盛り込まれ、平成19年度に「JST業務に係る男女共同参画推進計画」が策定されている。公募型の研究課題の募集要項、女性研究者への応募を呼びかけるメッセージを掲載したり、選考において男女共同参画の観点を踏まえるように選考委員へ要請したり、あるいは研究チーム編成に当たっては女性研究者の雇用に務めるよう代表者に依頼したりするなどの取り組みがなされているとの事であった。こういった努力は数値として現われている。平成18年度の取り組み開始と同時に、新規研究テーマにおける応募者・採択者ともに女性比率の上昇が見られることが、データによって示された。

最後の都河氏の講演においては、アメリカにおけるアファーマテイブ・アクションの歴史的経緯、北欧(フィンランド・スウェーデン)、ドイツにおける政府主導型の政策(何と数値目標は40%)、政府主導ではないが、「ジェンダー及びマイノリティの平等重視」に関して、評価を大学への予算配分に反映させるイギリスの手法が紹介された。また、「組織のマイノリティは30%必要」とされるカンター理論から、日本の現状として研究職だけでなく民間企業の管理職に占める女性比率も格段に低いことが報告された。これに関連して、平成14年に厚生労働省において、企業におけるPAを促すための提言が取りまとめられ、労働意欲・生産性の向上、多様な人材による新しい価値の創造、労働力の確保、外部評価の向上といった効果が期待できるとしている。

いずれにしてもPAは手法を誤ると男性あるいは庇護対象でない人からの反発等を招く恐れもあるため、「能力を発揮しにくい環境におかれている状況を是正する策の構築が必要」ということを定着させる必要を改めて認識させられた。

学協会連絡会としては、PAによって女性比率が向上した際に、学術機関にとってどのようなメリットがあるのか、ということを説明できるように取りまとめる必要がある。また、制度の周知をする努力も重要である。機会の平等と評価の公正を満たし、多様な人材の育成を行うことで、目標とするワークライフバランスを達成できるものと期待したい。

(文責 日本分子生物学会 陽智絵)

分科会B 「次世代の女性研究者育成の取り組み」

(コーディネータ:小舘香椎子氏 応用物理学会、武田譲氏 名古屋大学)

少子・高齢化が進む日本において、グローバルな次元での競争力をいかに維持し、また強化していくべきかという問いに対する答えとして科学技術への期待が再び高まりを見せている。また、政府の第3期科学技術基本計画の中でも「科学技術関係人材」の量と質の確保の重要性が掲げられている。そこで、分科会Bでは「次世代の女性研究者育成の取り組み」と題して、次世代の理系人材として期待されはじめた女性研究者の量と質の確保のために、地道に取り組まれている4名の方々に、所属機関における取り組みの事例をご紹介頂いた。タイトルと講演者は下記の通りである。

1.中部大学 岡島茂樹
「将来の科学技術を支える科学好きの子供を育成するために
 -初等・中等期の子供に対して何をなすべきか-」

2.日本女子大学 小川賀代
「大学における女性研究者・技術者のマルチキャリアパス支援」

3.理化学研究所人事部 谷由美
「理研の男女共同参画・女性研究者支援 ~研究も子育ても~」

4.名古屋大学 武田穣
「ノン・リサーチ キャリアパス支援事業」

中部大学・岡島氏からは、ご自身の母親の話を通して、科学好きの子供を育成するには日常生活の中に科学を取り入れることの大切さを、写真やエピソードを交えてお話頂いた。また、今日取り組まれている応用物理学会の「リフレッシュ理科教室」や遠隔地での「出張理科教室」、「親のための理科教室」などの活動についてご紹介頂いた。これらの活動を通して科学実験工作に夢中になるのは老若男女、理系・文系関係なく、これらの人々が将来の理系人材を育てることにつながり、持続的実践が女性研究者育成に寄与すると述べられた。また、何よりも、家族の団欒の中で、科学技術の話題が普通に出るような環境づくりが大事であると結ばれた。

日本女子大学・小川氏からは、家政学部家政理学科・理学部の卒業生(28~47歳)を対象に実施した「マルチキャリアパスアンケート」結果の一部が報告され、「理系を学んでよかったと思いますか」の問に対しては「よかったと思う」の回答が78%の回答が得られたと紹介された。これらの結果を導く大学の取り組みとして、AERA の「リーダーシップを育む女子大力」の記事を例にあげながら、女子大ならではの独立心が身につき、リーダーシップが育成できる環境について述べられた。また、女子大は「女性だから、できない・しない」ということが無く、多様なロールモデルが身近に多数存在するため、多様なキャリアパスの存在を示すことができるため、これが女性研究者・技術者の育成の支援につながっているとの報告があった。また、ポートフォリオシステムを活用した生涯サポートの取り組みについても報告された。

理化学研究所・谷氏からは、所内における次世代育成に資する取り組み、男女共同参画推進体制、意識啓発・情報提供、及び理研独自の妊娠・出産・育児の支援制度についてご紹介頂いた。これらの支援制度を実施することにより、過去3年間(H16-H18年度)において女性労働者に占める出産者の割合が全国平均1.7%に対し、理研では4%が得られ、男性の育児休暇も4人が取得したとの報告があった。日本を代表する研究所の恵まれた支援制度に対し、フロアからは運用予算に関する質問なども飛び出し、高い関心が寄せられた。

名古屋大学・武田氏からは、現在、取り組んでおられる「キャリアパス多様化事業促進事業」の取り組みについて紹介された。本事業では、全国のポスドクを対象として専門知識・経験を生かせるノンリサーチ分野に重点を置いた就職先の紹介を行っており、これまでに、登録者231名(女性:35%)、就職者56名(企業14 名、産学連携12名)うち女性12名(企業2名、産学連携3名)の実績を残している。研究職以外でもその職種で一人前になれば、強みになるため、博士号はメリットであることを強調された。

次世代の女性研究者育成に対する関心は高く、フロアとの意見交換が積極的に行われた。小・中・高校生の育成としては、家族ぐるみで科学に関心を持つことの大切さを確認し、年齢制限を越えたポスドクの就職については、名古屋大学の取り組みの他に応用物理学会で実施されている「キャリアエクスプローラーマーク」についての紹介がされた。また、単科大学などの小さな大学の女性研究者支援については、「女性科学者の会」などの活用も方策の1 つであることも紹介され、幅広い年齢層に渡った女性研究者育成・支援について活発な議論となった。最後に、フロアからの要望として、若手・現場の人の声を反映できる分科会を継続して欲しいとの意見が上がり、引き続きこのような意見交換の機会を設けることの重要性を再確認した。

(文責 応用物理学会 小川賀代)

分科会C 「男女共同参画における地域連携・組織連携」

(コーディネータ:相馬芳枝氏日本化学会、小川順子氏日本原子力学会)

男女共同参画を進めるには、地域との連携、組織内での連携が重要である。特に、女性研究者が育つには、研究と出産・育児・介護の両立を支援することが緊急の課題である。さらに、小・中・高校生を対象とした科学講座、出前授業などをすることにより、理科離れを緩和し、女子の理工系進路選択を支援することも大切である。分科会C では「男女共同参画における地域連携・組織連携」と題して、科学技術振興調整費「女性研究者支援モデル育成」事業に採択された大学・研究所の中から、地域連携・組織連携に地道に取組まれている5名の先生方によって、それぞれの大学での取り組みが紹介された。講演者とタイトルは下記の通りである。

1.粂 昭苑氏 熊本大学 教授
熊本大学の取り組み:「地域連携によるキャリアパス環境整備」事業について

2.松岡由貴氏 奈良女子大学 助教
生涯にわたる女性研究者共助システムの構築

3.登谷美穂子氏 京都大学 特任教授
京都府・京都市との連携から

4.田村哲樹氏 名古屋大学 准教授
愛知県における「産学官連携フォーラム」の実践

5.朴木佳緒留氏 神戸大学 教授
女性研究者支援モデル「再チャレンジ!神戸スタイル」

熊本大学では、男女共同参画推進室を設置し、民間から専門のコーディネーターを招き、熊本県とともに地域連携・人材データバンク化による女性研究者のキャリアパス環境の整備、女性研究者が活躍しやすい人事制度や研究と育児・介護の両立支援を目指している。奈良女子大学では、女性研究者だけでなく、卒業生や退職者、小・中・高生といった人材、そして地域社会によって形成される「生涯にわたる共助システムの構築」に取組んでいる。すなわち、地域の組織・団体と協力して、webによる子育て支援ネットワークを開発し、子育て支援サポーター養成講座を開催している。本年度は地域ボランティアによる託児を実施し、学内に閉じこもることなく地域社会に根ざした支援体制の実現を目指している。京都大学では、学位取得者に占める女子院生比と女性教員の比率のギャップを埋めるような環境を整えるために、平成18年度末に京都大学女性研究者支援センターを学内に設置し、4つの事業、「交流・啓発・広報」、「相談・助言」、「育児・介護支援」、「柔軟な就労形態による支援」を実施している。京都府、京都市等との地域連携も行いつつ、女性研究者が能力を最大限発揮できる環境を京都大学モデルとして創出し、男女共同参画社会形成に貢献することを目指している。市職員による相談員制度は、相談員が学内者ではないため相談しやすいとのことであった。名古屋大学は、愛知県、名古屋市、愛知県経営者協会、連合愛知とともに、平成16年に「あいち男女共同参画社会推進・産学官連携フォーラム」を設立し、「知の共有と相互フィードバックによる男女共同参画社会推進」を目標として活動している。これまでのシンポジウム等の企画・運営と意見交換などの活動内容が報告された。この他、平成18年4月には大学運営による学内保育所「名古屋大学こすもす保育園」を開設し、仕事と子育ての両立支援を強化した。また、男女共同参画推進のための各種アンケート調査の実施、シンポジウムの開催、理系女子学生向けエンカレッジセミナー、女子高校生向け理系進学推進セミナーの開催、女子中高生理系進路選択支援事業など実施している。また、神戸大学の「再チャレンジ!神戸スタイル」事業では、理系女性研究中断者を「育成研究員」としてインキュベートし、研究力を再活性化させ、雇用につなぐ側面支援を目的としている。また、学内外の院生・若手研究者・企業研究者等のロールモデルやメンターとの出会いの場としてキャリアカフェを開催し、地域・研究機関等との連携を実施中であるという。さらに、意見交換では、「地域連携があるからこそ、地域人脈の活用や育児、託児の支援、行政の知恵を活かすことができる。」、「科学技術振興調整費『女性研究者支援モデル育成』を男性にも恩恵を受けられる制度にして欲しい。」、「女子学生夏の学校のように、男子学生を対象とした家事学校、育児学校なども実現してはどうか」、「女性支援のためにつくった託児所を男性も女性以上に利用しているーこれは双方の立場の理解に繋がる」、「男性が家事、子育て、介護などを支援しないと結局はスーパーウーマンしか残らないことになる」、「他ではこうやってうまくやっているなどの外圧に頼ることも必要である」などの意見が会場から出された。分科会Cは、分科会A、Bとは少し離れた別の建物、野依記念物質科学研究館において開催されたこともあって、参加者が20名前後と少なかったが、興味ある内容であった。

(文責 日本化学会 讃井浩平)

全  体  会

(司会:小舘香椎子氏 応用物理学会)

主催者挨拶

美宅成樹氏(日本生物物理学会 会長・名古屋大学 教授)

 第5期の連絡会委員長として、今回の第5回シンポジウムを開催するにあたり多くの方々にお世話になったことに対して、まず、お礼を申し上げます。事前参加申込170名以上に加えて当日参加もあり、多数の参加をいただきました。また、特別講演として日本アイ・ビー・エム技術顧問の内永氏、パネル討論のパネリストとして内閣府男女共同参画局:板東局長、文部科学省科学技術・学術政策局:山脇基盤政策課長にお越しいただいたことをはじめ、午前中のセッションでも十数名の講師に講演をしていただき、このような盛会となりましたことに感謝申し上げます。また、資金的援助をJSTより、施設的配慮を名古屋大学よりいただき、JSTと名古屋大学とは共催、そして、文部科学省と学術会議はに後援をいただいて、連絡会として初めて、地方でのシンポジウムの開催が実現いたしました。

 連絡会の委員長を引き受けて1年が過ぎ、改めて考えますと、少子化の中での男女共同参画活動は1960年代の理工系ブームと似ているように思います。かつての理工系ブームは多量の科学技術者を輩出し、科学技術を推進する人材基盤を確立しましたが、後にそのひずみから紛争を招きました。現在の状況の中で少子化をくいとめ日本の科学技術が推進を続けるためには、女性の参加・活躍は社会的要請に他なりません。しかし、悪環境下でそれを進めていくと、かつてのような紛争が起きてしまうのではないかと思えてなりません。既に紛争を経験したという過去に学び、繰り返すことのない施策を行政へお願い致します。それと関連して、今後のあるべき姿を考えるために連絡会ではアンケート調査を実施中です。今後の男女共同参画をよりよい方向へもっていき、よりよい施策へ結びつけるためにも、アンケート回答件数が大きな力となります。このシンポジウムを有意義なものとして参加いただくと同時に、アンケートへの協力もどうぞよろしくお願い申し上げます。

(文責 日本バイオイメージング学会 洲崎悦子)

来賓挨拶

板東久美子氏 (内閣府男女共同参画局 局長)

 第5回シンポジウムがこのように盛会に行われますことに、お祝い申し上げます。

 かつて文部科学省に長く所属しており、男女共同参画学協会連絡会が発足した1年後のシンポジウムにパネリストとして出席をしたこともございます。その際に、若手研究者の期限付き任用、さらに女性研究者にとってはそういう時期に重なる出産・育児という非常に難しい問題があることに気がつきました。

 内閣府ではこれまで科学技術・学術分野における男女共同参画を重要な課題として考えてきております。第3期科学技術基本計画には科学技術における女性の参画の拡大が盛り込まれ、18年度からは具体的な施策も動き始めました。このような動きを起こした最大の力は、先行して行われた女性科学技術者の多くの発言、そして何より、学協会が横のつながりをもつ連絡会として発足したことにあると思います。

 このシンポジウムには多くの男性の参加も見られますが、真の男女共同参画を進めていくには、女性だけではなく男性を含めた社会全体で考えていくことが必要です。日本は国民的能力の高い国ですから、その能力を無駄にすることなく多様な人材を活用していくことが重要となります。すなわち、今後の科学技術の推進には男女共同参画が大変重要であり、そのために、連絡会の活動が今後の時代を作る試金石、また、起爆剤となることを期待しております。

 かつてより男女共同参画においてフロンティア的存在である名古屋大学で今回のシンポジウムが開催されますことを幸いなことだと思っております。名古屋大学総長はじめ皆様の御厚意と御尽力に感謝申し上げます。また、このシンポジウムが参加者の皆様にとって実りの多いものとなり、次のステップへとつながっていくものとなりますことを祈念いたしております。

(文責 日本バイオイメージング学会 洲崎悦子)

歓迎の辞

平野眞一氏 (名古屋大学 総長)

 このシンポジウムに参加下さった皆様にお礼を申し上げます。名古屋大学としては開催のために精一杯の努力をして参りましたし、そのようにできますことを名誉とも思って勤めてきました。JSTをはじめ、連絡会関係者の皆様がこの地を選んで下さいましたことにお礼を申し上げると共に、地方での男女共同参画が今後ますます進んでいきますことを祈念いたしております。

 男女共同参画学協会連絡会は40万人を越す会員数を有する会でありますが、そのうちの5%が女性会員であり、女性の組織率はまだ低いものです。しかし、連絡会として横のつながりを大切にして男女共同参画活動を継続してこられましたことに敬意を表します。

 名古屋大学は全国的には早期に男女共同参画に取り組んできた大学であり、2003年には早くも男女共同参画室を設置し、部局長からなる男女共同参画推進専門委員会による「名古屋大学における男女共同参画を推進するための提言」を公表しました。この提言は他大学にも影響を与える先進的なものであったとの評価を受けております。さらに大学の枠を越え、あいち男女共同参画社会推進・産官学連携フォーラム事業も展開してきました。2006年には学内保育所「こすもす保育園」も開園しました。コスモスの花のような優しさを、という思いと、宇宙的広がりをもつようにとの思いからこのように名づけられ、学内の利用だけでなく、学会開催時には参加者にも利用してもらえる施設として稼働しています。その他、本学では教員だけではなく、事務員も含めた女性の地位向上を目指し、また、女子学生・高校生を対象とした取り組みも行ってきています。今年度からは科学技術振興調整費も得て、ますます男女共同参画事業を推進しております。

 このような幅広い活動を通して、広い男女共同参画が進んでいくことを祈念しております。

(文責 日本バイオイメージング学会 洲崎悦子)

特別講演 『科学技術分野にけるダイバーシテイの考え方』

内永ゆか子氏(日本アイ・ビー・エム株式会社 技術顧問)

 日本アイ・ビー・エムで取締役専務執行役員まで経験された内永氏の講演は、アイ・ビー・エムがなぜ男女共同参画を推進したのか、またそのためにどのような方策を講じたのか、ということについての話であった。概要を以下にまとめる。

(1) アイ・ビー・エムが男女共同参画推進を開始した背景

 イノベーションとは、技術で社会の仕組みが変わることである。これまでは、技術が出現してから、それが一般に普及して世の中が変わるまでの時間が、50年程度のスケールだった。ところが最近は、その時間が短くなっている。例えば、パソコンや携帯電話、インターネットなどの普及は、15年程度で実現してしまった。このような変化が速い時代に、日本だけ或いは大学だけといった狭い範囲で物事を議論していてはいけない。世界の出来事がすぐに自分や自社に影響するという時代であり、世界は急速にフラット化していると言える。

 フラット化した世界で何に価値が出てくるかというと、斬新なアイデアを持つ人材である。人種に優劣がないとすると、人口の多い国には、優秀な人材が豊富だということになる。従って、中国やインドから優秀な人材を採るというのが、企業にとっての戦略となっている。日本は人口が少なすぎるし、人口の半分を占める女性も有効に活用していない。日本人を採用するなら、(優秀な人材がたくさん埋もれているに違いない)女性を探すべきだ。これは、人権などの問題ではなく、企業戦略である。

 イノベーション実現には、グローバル、オープン、コラボレーテイブ、複合領域という4つのキーワードがある。これらが競争力の源となるわけだが、共通して浮かび上がってくるのは「ダイバーシテイ(多様性)」である。男女、人種、障害者など区別なく、さまざまな人材を活用することが多様性であり、そのことがイノベーション促進につながる。

(2) 企業における男女共同参画推進の方策

 アイ・ビー・エムの経営状態がどん底であった時、新任のガースナー社長が新しい企業戦略として打ち出した方針が、“Diversity Management”である。当時、全社に女性社員が35%いたにもかかわらず、Top Executiveはすべて「白人の男性」であった。そこで女性のマネージャーを増やすために、事業所ごとに数値目標を立て、定期的に成果報告をさせるというやり方で推進していった。マネージャーを育成するためのプログラムも実行した。このようなトップダウン方式によって、女性管理職は育成され、1998年には一人だった女性役員が、2003年に4人にまで増えた。

 次は女性技術者を増やすということで、2005年にCOSMOSという女性技術者コミュニテイを設立した。技術者の男女の人数比から考えて、テクニカルリーダーの数は女性のほうが圧倒的に少ない。これをイーブンにするためのさまざまな阻害要因を取り除くプログラムを、2009年を目標に実行している。主な阻害要因は、①将来像が見えない、②Work & Life バランス、③Old Boys Network、④人材育成への意識不足、の4つである。一つ一つに対応策が考えられる。例えば、③は、女性だから教えてもらえない細かなことがたくさんある、という問題である。企業であれば、会議で相手を説得する方法など、パワーゲームに勝つためのノウハウを、先輩が教える必要があり、対策としては、メンタリングを行うなどが考えられる。④への対策は、立場(職位)が人を育てるということがあることを、人事評価をする人たちに教えることである。

 今年私は、ジャパン・ウィーメンズ・イノベーテイブ・ネットワーク(J-Win)というNPOを立ち上げた。理数系女子学生に就職斡旋などをしてきたSociety of Women Engineering (SWE, 1950年設立)などの古いNPOと共同で、ワークショップも計画している。

 “ダイバーシテイがイノベーションを促進する。” これが本講演の結論である。

(文責:日本物理学会 田島節子)

パネル討論 「真の男女共同参画へ向けて意識を変えよう!」

司   会栗原和枝氏 第5期学協会連絡会副委員長、東北大学 教授
パネリスト板東久美子氏 内閣府男女共同参画局 局長
小畑秀文氏 東京農工大学 学長
大隅典子氏 東北大学 総長特別補佐
羽入佐和子氏 お茶の水女子大学 副学長、図書館長
山脇良雄氏 文部科学省 科学技術・学術政策局基盤政策課長
内永ゆか子氏 日本アイ・ビー・エム株式会社 技術顧問
コメンテータ島田純子氏 科学技術振興機構 男女共同参画担当
大木宰子氏 日本学術振興会 総務部長

<パネリストからの情報提供>

板東久美子氏(内閣府男女共同参画局 局長)

 科学技術の分野に限らず、国の施策における男女共同参画の現在の状況と、向かっている方向について話したい。

 男女共同参画は少子化対策の観点でなく、今後の強い日本社会の形成という意味で重要である。「多様な人材を持つ組織は強い」ことは明らかであり、男女共同参画はイノベーション活力に繋るものである。また男女共同参画はダイバーシティの基本的な柱であり、これを実現出来なければ他の分野のダイバーシティに繋らないのである。

 ダイバーシティの基盤としては、仕事と生活の調和の推進が重要である。米国松下電器の社長だった現・松下電器の会長によると、うまくいかない米国企業の共通点の一つに「人材が均一である」ということがある。ダイバーシティの推進は企業のパフォーマンスの向上にも繋がるものなのである。このような背景から、福田首相の所信表明演説でも男女共同参画についての言及があった。

 日本の女性の能力は高いが、活躍度が低いのが問題である。国連の調査では75カ国中、日本の女性の人材開発指数は7位だが、活躍度は42位である。日本では、女性の就労率には依然として出産育児によるM字カーブが残っている。育児休業取得者は増えているが出産を機に退職する者が依然として多く、継続して働けていない。さらに、出産後の再就職はパート・アルバイトが主であり、労働力の非正規化は女性の問題としても大きい。

 女性の労働には役割分担意識の問題があるが、変化も見られる。先週の世論調査によると、「夫は外・妻は家庭」に反対とする回答が過半数となった。しかし、これは諸外国と比較するとまだ少ない。女性が職業を持つことに対する意識に関する設問でも、子供があっても職を続ける「継続就労型が良い」とする回答が上回っており、男性もそう考えている。男性の家事育児時間が少ないことには、男性の長時間労働の問題もある。したがって男女共同参画は、男性も含めたワーク・ライフ・バランスの問題として考えることが重要である。

 わが国での女性研究者の割合は11.9%で、理工系ではさらに低い。このためいろいろな政策が動きだしている。政府は男女さまざまな年代でワーク・ライフ・バランスの推進をはかろうとしている。制度としても、男女共同参画会議等、官民の多様な会議で検討されており、平成19年度の「骨太の方針」にも盛り込まれている。ワーク・ライフ・バランス推進官民トップ会議も設置された。

 男女共同参画は、女性だけの問題として捉えると大きな前進は無い。多様な社会に変えていくことが重要である。すべての人の問題と受け止め、意識を改革することが重要である。

山脇良雄氏(文部科学省 科学技術・学術政策局基盤政策課長)

 文部科学省の取り組みを「女性研究者支援モデル育成」を中心に説明する。平成20年度概算要求では、主に3つの枠組みで科学技術分野における女性の活躍促進に対する支援を目指している。1つ目は女性研究者の育成・活躍促進を積極的に行うモデル的機関の支援事業であり、本日はこの女性研究者を支援する事業について話したい。2つ目は、出産・育児による研究中断からの復帰支援、3つ目は、女子中高生の理系進路選択を支援する取り組みの実施である。

 「女性研究者支援モデル育成(科学技術振興調整費)」では、平成18年度から大学への支援を行っており、来年度も同程度以上の支援をするために、予算要求を行っている。平成18年度では、様々な大学を採択したが、19年度は、研究機関も3機関採択し、地域との連携を含めて進めている。平成18、19年度合計で20機関を採択しており、採択された機関のほとんどが何らかの数値目標を設定していると聞いている。

 その他、日本学術振興会からのRPD制度や、科学技術振興機構による「出産・子育て等支援制度(仮称)」の関連する取り組みがある。

 「効果の検証~効果的な支援のあり方」「支援の継続~モデルから定着へ」「成果の普及~有効な支援策の共有」「実施機関の拡大~民間企業等も含めた拡がり・連携」「制度・運用の改善~研究資金、業績評価等」など、まだ様々な課題が残されていると考えている。

島田純子氏(科学技術振興機構 男女共同参画担当)

 文部科学省の所管する独立行政法人である科学技術振興機構(JST)が行っている、男女共同参画の取り組みを紹介する。

 JSTでは、その活動理念の一つに新しく、「女性研究者等多様な研究人材が能力を発揮できる社会の実現に努める」を加え、男女共同参画の取り組みを行っている。「多様な研究人材」には、女性や外国人、若手を対象としており、「JST業務にかかる男女共同参画推進計画」を策定した。この推進計画を推進するための活動方針を「女性研究者のロールモデル形成」「研究コミュニティへの側面支援」と定め、多岐にわたる運用の共通意識としている。

 この計画が定めているのは、次の6点である。すなわち「1.数値目標の設定」「2.研究と出産・育児の両立支援策の推進」「3.理数系への女子の興味・関心の向上に資する取り組み」「4.意識改革・啓蒙活動」「5.研究コミュニティへの支援」「6.取り組み状況の評価と結果の公表」である。公募型の研究事業に参画する女性研究者を増やすために、出産、育児、介護などのライフイベントからの復帰を支援する費用補助制度や、研究費支給対象となる研究期間の延長等のしくみを用意し、ウェブサイトでキャンペーンを行っている。また、選考委員、研究代表者には、女性研究者を登用するよう依頼している。

大木宰子氏(日本学術振興会 総務部長)

 日本学術振興会は、ファンディング・エージェンシーとして大学等の研究者の支援を行っている。男女共同参画に関連する事業として実施している特別研究員-RPD制度を中心に紹介する。RPDの制度ができた背景には、わが国の女性の研究者の割合が10%程度で、雇用者一般と比べても割合が低いこと、特に工学系では非常に低いことや、研究業績をあげることが多い年齢である時期に、いわゆるM字カーブの底を迎えていることなどがある。

 RPDは、出産・育児により中断した研究活動への復帰を支援する制度である。平成18年度に開始された。出産・育児期の多くの研究者が非常勤や任期付きの不安定なポストに就いており、出産、育児休暇が適用されないことが多く、その職を辞めざるを得ないこともRPD制度ができた背景の一つである。本制度は、女性だけでなく男性も対象とし、年齢制限を設けていないことに特徴がある。採用期間は2年間で月額36.4万円の研究奨励金と年150万円以下の科学研究費補助金を支給するものである。平成18年度は140名(うち男性は6名)の申請があり、32名を、平成19年度は212名(うち男性は20名)の申請があり、34名を採用した。平成20年度は現在審査中であるが、201名(うち男性は16名)が申請している。

 RPDを含む特別研究員制度では、その採用期間中に出産・育児による採用中断を認め、中断に相当する期間の延長ができるようにしている。

 RPDの平成18年度採用者を集めた懇談会を開催し、参加者から、「困っている人は多いので採用数を増やしてほしい」「採用期間の2年間で実績を出すのは難しいので、採用期間を3年にしてほしい」などの要望を聞いている。振興会としてもRPD事業の必要性を認識しており、複数年度にわたる採択者を含め、予算上の採用数60名を100名に増員するように概算要求を行っているところである。

内永ゆか子氏(日本アイ・ビー・エム株式会社 技術顧問)

 大学に対する、JST、日本学術振興会などの制度のお話をうかがい、至れりつくせりの手厚い制度であると感じた。民間企業に対してはこのような事業がなく非常に羨ましいと思う。水を注すようではあるが、男女共同参画の本質がどこにあるのか、すなわち、「大学はどうやって競争力を上げるのか」を見据えてた上で、制度を積極的に活用し、大学の競争力を上げることを考えるべきだろう。

小畑秀文氏(東京農工大学 学長)

 東京農工大学では、平成18年度に女性研究者支援モデル育成事業と若手研究者の自立的研究環境整備促進事業の2つが採択されており、今年度も社会人の学び直しニーズ対応教育推進プログラムと科学技術関係人材のキャリアパス多様化促進事業の2つが採択された。

 東京農工大学は中規模大学であるが、常勤の女性教員の占める割合はわずかに8%である。しかし大学院学生の4分の1が女性であることから、女子学生のキャリアパス支援が課題となっていると考えている。このため、評議会で、女性教員が国際的なトップレベルの研究を推進する「理系モデル大学」となるための基本目標を採択した。

 女性研究者支援モデル育成事業による「理系女性のエンパワーメントプログラム」では、女性キャリア支援・開発センターが取り組みを行なっている。特に女性研究者が研究を続ける大学環境づくりとして学内制度の整備や規定の改正も検討している。

 数値目標も設けており、例えば平成14年から17年度の新規採用数に占める女性教員の割合は11%であったが、5年後はこれを20%にすることを目標として定めている。若手人材育成としては、若手人材育成拠点採用者の女性5名のうち2名が出産間近になったということもあり、テニュアトラック制度下でのテニュア取得に関する評価法をどのようにするかが大きな問題となっており、現在、学内で議論中である。

 女性獣医師の学び直し支援プログラムは、東京都、民間と連携した再教育プログラムである。また、事務系職員については過去3年間の常勤職員の採用では、女性比率が80%となっている。

 今後は個別に採択されている各プロジェクトの有機的な連携を考えたい。また、プロジェクト予算が終了した後、大学としてどう対応するかについては今後の課題である。いずれにしても真の男女共同参画意識の徹底が必要である。優秀な女性は多く、女性を採用するなら、他の機関が本格的に取り組む前の今だ、と考えている。

大隅典子氏(東北大学 総長特別補佐)

 東北大学では、平成14年から男女共同参画への全学的な取り組みを始めている。

 女性研究者にはロールモデルが不足している上、出産や育児というハードルがある。このハードルを克服するために全学的な実施体制のもとで3つのプログラムを展開している。

 育児・介護支援プログラムでは、超過勤務があたりまえである現状を改善し、働いた時間に対応した給与を与えて評価をし、余った経費を育児支援や研究教育支援にまわすワークシェアリングを平成19年度から試行している。環境整備プログラムでは、保育園や病院を拡充し、女性室を設置するなど女性に働きやすい職場を提供している。次世代支援プログラムでは、女子学生を「サイエンス・エンジェル」に任命し、母校の訪問などのアウトリーチ活動によって、これから理系に進む女性に対してロールモデルを紹介している。

羽入佐和子氏(お茶の水女子大学 副学長、図書館長)

 全ての職員に対して大学の女性支援を進めているのがお茶の水大学の特徴である。

 子育て中の女性研究者がどのような毎日を過ごしているのかを詳細に調べたところ、睡眠時間が短く、仕事の内容が多岐にわたることがわかった。大学の支援による補助者や学内保育所、学内宿舎を利用すること、研究専念タイムの導入などで時間的な余裕がうまれ、ワーク・ライフ・バランスが向上した。このプログラムの実施によって具体的な問題点が明らかになり、全学的にも意識が変わり、それが雇用環境の整備や研究教育環境の改善にもつながる。このような研究支援やロールモデルの情報を蓄積し共有することで、大学がどこまで支援し、本人がどこまでやるべきかが明確になり、次世代の女性研究者の育成にもつながる。

<フロアとの意見交換>

フロアからの発言(名古屋大学男女共同参画室):
 振興調整費は男女共同参画の促進の大きな力になったが、3年間という期間が短すぎる。新規採用を増やすだけではなく延長のしくみが必要ではないだろうか。
 名古屋大学における「COSMOS保育園」の取り組みは男性職員にも喜ばれた。支援は女性のためだけではない。これから課題となる介護では男性、女性の双方に影響のある問題ある。子育てとは異なり、期限が見えないことも育児との違いである。働く者への支援という視点で、延長をお願いしたい。

栗原和枝氏:
 振興調整費による取り組みは、男女共同参画の穏やかなポジティブアクションということで、受け入れやすいことがわかったように思う。

山脇良雄氏:
 振興調整費が男女共同参画の「きっかけ」になったという意見をいただきうれしく思っている。これを定着させていく必要がある。効果を評価して、定着の方法を考えないといけない。第三者が見ても、有益な支援策だと見える形で進めなければならない。先ほどの内永氏の意見にもあったように、なぜ、大学研究者の女性だけを支援しなければならないのか、という点については、企業の女性研究者との関連も含めて考えていく必要がある。実施機関の広がりと定着を考えたい。

板東久美子氏:
 出産、育児を女性の役割分担の問題とし支援され、男性は見守るだけというのは問題である。いろいろなところで話をするが、若手の男性研究者から熱心な質問を受けることが多い。彼らは男女共同参画を「自分の問題」として見ている。女性研究者の問題はいわば突破口であり、今後、対象を広げていく必要がある。大学にふさわしい環境整備を考え、大学全体の環境作りの問題として考えていくべきである。
 介護の問題は深刻である。女性、男性を問わず、見通しが付かない。そのためにも大学全体の環境作りの問題として考えていくべきである。
 大学と民間の違いだが、キャリア形成途上に期限付の任期制は民間にはない。そのため大学の方を手厚くする必要があると考えている。

フロアからの発言(小舘香椎子氏 日本女子大学):
 応用物理学会では、取り組みの立ち上げの際に、学協会で連携していかなければならないと考えた。各学会では、男女共同参画を女性の問題と捉えられる傾向があるが、実際には男性、若い世代、シニアの世代のすべてを含めた問題である。シニアの労働力が減る2007年問題に向け、2006年から活動を始めている。若手、シニア、女性の3つに分けて取り扱っている。

フロアからの発言(相馬芳枝氏 産総研):
 分科会の報告を聞き、真の男女共同参画は女性だけの問題ではないことを感じた。

フロアからの発言:
 今日の報告でも男女共同参画は女性の問題と捉えられる傾向があることがわかった。一方、中学、高校などの現場の先生方から、「男女差別なく教育しているため、逆になぜ、女子高校生だけに『理系に行こう』と働きかけるのか」と質問されることがある。男女共同参画局が、初等中等教育を扱う部局とも連携して取り組めば、女性のためだけではないことが認識されていくだろう。  お茶の水大学では「9時~5時プロジェクト」は職員の何%が実施できたか。

羽入佐和子氏:
 どのように数値化するかも明確にする必要があり、何%かを申し上げるのは難しい段階である。

栗原和枝氏:
 アンケートの結果より、男女共同参画の取り組みに数値目標があることも知らない人も多いことがわかり驚いている。この結果を踏まえ、男性初の男女共同参画学協会連絡会長としてのコメントをいただきたい。

美宅成樹氏:
 私の意識としては、男性・女性というダイバーシティよりは、男性の中、女性の中のダイバーシティが大きいと思う。自分は連絡会の会長を務めており、ダイバーシティの端の方に居ると思う。この一年の間、自分も勉強した。人は変るということである。男性の中のダイバーシティを少しシフトさせると良いのかも知れない。アンケートにおいて数値目標を「知らない」と回答している人も、アンケートに回答することで、数値目標に気がつくという効果もある。気長にやれば良い。私はこの取り組みに関して、自分が「男性」であると意識してはいない。5年、10年と続けていけば、どこかで常識が変るのではないだろうか。

栗原和枝氏:
 アンケートも含めた取り組みを継続することで、文部科学省にもこうした事業を定着するようにしていただければと思う。
 本日は長時間にわたりお付き合いをいただきありがとうございました。

(文責 日本蛋白質科学会 長野美希 白木賢太郎、
日本結晶学会 渡邉信久、土木学会 河合菊子)

ポスターセッション

ポスターセッションは野依記念学術交流館1階ロビーを会場として、25の学協会の活動紹介と科学技術振興調整費「女性研究者支援モデル育成」を実施している20大学・機関の取り組み、および女性研究者支援事業を行っている7機関の展示・発表があり、活発な意見交換が行われた。

【展示・発表をした学協会、大学や機関】

連絡会の25学協会
応用物理学会、化学工学会、高分子学会、電子情報通信学会、日本宇宙生物科学会、日本化学会、 日本原子力学会、日本女性科学者の会、日本数学会、日本生物物理学会、日本蛋白質科学 会、日本動物学会、日本発生生物学会、日本物理学会、日本分子生物学会、日本森林学会、 地球電磁気・地球惑星圏学会、日本神経科学学会、日本バイオイメージング学会、日本地球惑星科学連合、 日本進化学会、地盤工学会、日本金属学会・日本鉄鋼協会、土木学会、日本科学者会議

科学技術振興調整費「女性研究者支援モデル育成」採択20大学・機関
東京女子医科大学、熊本大学、京都大学、東京農工大学、日本女子大学、東北大学、早稲田大学、 奈良女子大学、お茶の水女子大学、北海道大学、東京大学、(独)森林総合研究所、(独)産業技術総合研究所、 九州大学、大阪大学、(独)物質・材料研究機構、名古屋大学、神戸大学、千葉大学、広島大学

女性研究者支援事業を行っている7機関
(独)科学技術振興機構、日本学術振興会、理化学研究所、味の素奨学会、(財)内藤記念科学振興財団、 東邦大学、名古屋市立大学

また連絡会が行っている「第2回大規模アンケート(中間発表)」の展示も行われた。

 ポスター賞選考委員(日本地球惑星科学連合、高分子学会、日本発生生物学会、日本数学会、日本金属学会、日本鉄鋼協会、日本宇宙生物科学会、日本神経科学会)による審査の結果、以下の大学、機関が選ばれた。企画賞、ビジュアル賞、ユニーク賞が選定され、美宅委員長からそれぞれに表彰状が授与された。

【受賞した学協会、大学や機関】
 最優秀賞  東北大学
 優秀賞   日本女子大学、応用物理学会、日本分子生物学会
 企画賞   日本神経科学会
 ビジュアル賞 日本土木学会
 ユニーク賞  九州大学

各 種 報 告

(司会:美宅成樹氏 日本生物物理学会)

第2回大規模アンケート中間報告

(豊島陽子氏 日本生物物理学会・東京大学)

 豊島陽子氏より第2回大規模アンケート調査の中間集計結果が報告された。9月25日までの回答数は4956件で、男性と女性の割合は7対3、大学研究機関と企業の割合は8対2、とのことであった。この中から、いくつかの項目についての回答の傾向が紹介された。子どもの実数は平均1.0人(男性の平均1.2人、女性の平均0.66人)であるが、今回新たに加わった質問事項から子どもの理想の数は平均2.3人であり、男女間でほとんど差がないことがわかった。研究職・技術職の女性比率が低い理由として、男女とも「家庭と仕事の両立が困難」がトップであったが、男女の差が大きいものとして、「男女の適性の差、能力の差、家庭環境、教育環境、職場環境」については男性が多く、「評価者が男性を優先する、役職につきにくい」については女性が多かった。さらに、指導的地位の女性の比率が低い理由として、女性の回答率が高かった選択肢は「評価者が男性を優先する、業績評価において育児・介護等に対する配慮がない、ロールモデルが少ない」というものであり、これらの点においては男性と女性の認識が違う傾向があることが指摘された。最近始まった「育児からの復帰支援」など文科省関連の4つのプログラムについて、「知っている」という回答は3割から4割程度であった。これらのプログラムに対する評価は概ね肯定的であったが、「女性研究者採用の数値目標の設定」については、否定的な評価がやや多かった。以上はアンケート開始から約1ヶ月(実施期間の約半分)経過時点の回答からの中間集計であるが、今後、さらに回答数を増やすように努めたいとのことであった。

分科会報告

 午前中開催の3つの分科会の報告が、大坪久子氏、小舘香椎子氏、相馬芳枝氏からあった(詳しくは各分科会の報告参照)。

連絡会活動報告

(石森浩一郎氏 日本生物物理学会・北海道大学)

 第5期連絡会副委員長の石森浩一郎氏より連絡会の1年間の活動報告がされた。今期も前期同様、運営委員会を6回開催し、その主な内容は以下のとおりである。

  • ① 「女性研究者支援モデル育成事業」の募集継続と柔軟な運用、およびその他の必要な施策等の実現に関する要望書を作成し、内閣府、文部科学省、科学技術振興機構、日本学術振興会など関係諸機関に持参し、学協会連絡会としての要望を行なった。
  • ② 第5回男女共同参画学協会シンポジウムを名古屋大学で行うことを決定した。
  • ③ 学協会連絡会の財務基盤強化のため、参加学協会から年会費を徴収することとした。
  • ④ 第2回「科学技術系専門職における男女共同参画実態の大規模調査」を実施することにした。

 今期はさらに、多くの学協会の男女共同参画担当者が参集する運営委員会の機会を利用して、学協会を取り巻く男女共同参画関連の話題や、今期実施した大規模アンケートについて、毎回2名から数名の講師を招いて3回の勉強会を開催したことも報告された。

 次に、第4期の幹事学会である日本分子生物学会が実施した学協会連絡会に加盟する学協会における女性会員比率調査の結果が紹介された。

 また、主催行事としては、今回の第5回男女共同参画学協会連絡会シンポジウムや第2回「科学技術系専門職における男女共同参画実態の大規模調査」のほか、第3回女子高校生夏の学校を2007年8月に2泊3日で文部科学省、(独)国立女性教育会館、日本学術会議「科学と社会委員会 科学力増進分科会」とともに主催したことなどが報告された。

新規加盟学会紹介

 新たに5学会が正式加盟、7学会がオブザーバー加盟となり、錯体化学会の佐々木陽一会長、日本進化学会の三中信宏幹事長、日本遺伝学会の品川日出夫会長、日本バイオインフォマティクス学会の高井貴子幹事、日本水産増殖学会の家戸敬太郎幹事、日本鳥学会の酒井秀嗣氏より挨拶があった。

ポスター賞報告

 ポスター賞の選考結果が報告された。最優秀賞には東北大学が選ばれた。優秀賞3件は日本女子大学、応用物理学会、日本分子生物学会に、企画賞には日本神経科学会が、ビジュアル賞には日本土木学会が、ユニーク賞には九州大学がそれぞれ選ばれた。美宅委員長からそれぞれに表彰状が授与された。

次期連絡会運営委員長挨拶

次期連絡会運営委員長の中村正人氏(日本地球惑星科学連合)より以下の通り挨拶があった。

 日本地球惑星科学連合は連絡会でも新参である。元々地球惑星科学では小さな学会が林立している状況だったが、より大きな声をまとめるために2005年5月25日に地球惑星科学関連のほとんどの学会が加盟する連合組織として「日本地球惑星科学連合」が設立された。現在は加盟46学会、総会員数約5万3千人である。

 日本地球惑星科学連合は、我が国における地球惑星科学分野の意見集約や合意形成をはかると同時に、対外的な窓口組織として国や一般社会に対して提言や情報発信を行っていくことを意図している。特に、日本学術会議との連携や国際プロジェクト等への対応、我が国の科学技術政策への提言、初等・中等教育における地学教育や理科教育問題への対応、報道機関を通じた研究成果等の情報発信、一般市民を対象とした教育・啓蒙・アウトリーチ活動等を積極的に行っていく予定である。男女共同参画委員会は昨年から総務委員会の下の小委員会として活動していたが、今年から独立の委員会として運営されることになった。委員長に宇宙航空研究開発機構の中村、副委員長に産業技術総合研究所の富樫、京都女子大学の前田、京都大学の三ヶ田が就任している。

 さて、男女共同参画は大変大事であるととらえられているが、それがどのような意味で重要かという定義は様々であろうと思う。その中の一つとして、私が前から考えていたのは、ただ女性が男性と同数参画するというだけでは十分ではなく、女性の参加により、その科学者のコミュニティなりが男性だけの場合より、よりよい科学的成果を上げることが出来る事が重要ではないかと思う。それがあって、初めて実り多い人類社会の実現に一歩近づくのではないか。これは私見であるが、皆様におかれても、自分なりの男女共同参画に対するご意見をはぐくんで行かれるよう、切に希望している。

 最後になりましたが男女共同参画学協会連絡会の益々の発展を祈ってご挨拶とさせていただきます。

第5回男女共同参画学協会連絡会シンポジウムの参加者は206名であった。

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