男女共同参画学協会連絡会 Japan Inter-Society Liaison Association Committee for Promoting Equal Participation of Men and Women in Science and Engineering Japan Inter-Society Liaison Association Committee for Promoting Equal Participation of Men and Women in Science and Engineering

3周年記念シンポジウムの報告

まとめ

PDF形式の全体報告書

開催日時:2005年10月7日(金)
開催場所:お茶の水女子大学 理学部3号館

テーマ :21世紀の産業を拓く男女共同参画社会

主催:男女共同参画学協会連絡会
後援:日本学術会議,文部科学省

プログラム

10:00-12:00
テーマ討論「産業界における女性の研究者・技術者を増やすために」

オーガナイザー 森義仁氏(日本化学会)

ポスター展示:各学協会の取り組み

(13時~17時40分まで 全体会)

1.主催者挨拶
村井眞二氏(日本化学会会長)

2.来賓挨拶
鈴木正人氏(日本経済団体連合会 常務理事)
丸山剛司氏(文部科学省科学技術・学術政策局長)
荒木由季子氏(経済産業省資源エネルギー庁新エネルギー対策課課長)

3.歓迎の辞
郷 通子氏(お茶の水女子大学学長)

4.特別講演
長沼雅子氏(資生堂)
「働き続けられる職場から、ともに働きやすい職場へ」

塩満典子氏(内閣府男女共同参画局)
「科学技術分野における男女共同参画~行政の立場から」

小舘香椎子氏(日本女子大)
「多様な理工系女性の育成―男女共同参画推進と大学の役割―」

--------------------休憩------------------

5.パネル討論「産・官・学・男・女-真の共同参画社会を目指して」
(司会) 井上祥平氏(東京理科大学)
(パネリスト)
淺川智恵子氏(日本IBM)
辻 篤子氏(朝日新聞)
舘 かおる氏(お茶の水女子大学ジェンダー研究センター)

6.連絡会活動報告

相馬芳枝氏(男女共同参画学協会連絡会委員長)

7.新規加盟学協会会長挨拶

小幡邦彦氏(日本神経科学学会)
三谷浩氏(土木学会)
和田正三氏(日本植物学会)
鈴木和男氏(日本バイオイメージング学会)
本蔵義守氏(地球電磁気・地球惑星圏学会)
岡部敬一郎氏(石油学会)
長谷純宏氏(日本糖質学会)

8.テーマ討論(「産業界における女性の研究者・技術者を増やすために」)の報告

9.ポスター賞の発表

10.次期幹事学会会長挨拶
花岡文雄氏(日本分子生物学会)

11.閉会挨拶
芹澤昭示氏(日本原子力学会会長)

18:00-
懇親会

テーマ討論「産業界における女性の研究者・技術者を増やすために」

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1.お茶の水大学の森先生からテーマ討論会を以下の手順で行う事が説明されました。
・趣旨説明
・アンケート記入
(1)産業における女性の研究者・技術者が少ないことによる影響
(2)女性の研究者・技術者が少ないことの理由
(3)女性研究者・技術者が増えることにより期待されること
(4)増やすための方法
(5)まとめ

2.趣旨説明
最初の20分で森先生が科学史の研究から男女共同参画に係わられるようになった経緯を話され、
・日本の高齢化は急速に進みつつあること
・女性の労働人口における30歳代から40歳代のM字形は先進国の中では日本独特なこと
・国勢調査では日本は専門技術職女性は急増しているが、主な分野は保健・農学であって、その他の分野では横ばい状態であること
等、日本と世界の女性研究者・技術者の現状を統計資料を用いて紹介されました。

3.アンケート調査
テーマ討論会参加者全員でアンケート記入を行いました。

4.「(1)産業における女性の研究者・技術者が少ないことによる影響」について討論し、
・戦力が少ない
・戦力が埋もれている
・多様性に欠ける
・女性の登用で新しい観点が見出せる
 等の意見が出ました。

5.「(3)女性研究者・技術者が増えることにより期待されること」について引き続いて討論し、次のような意見が出ました。
・女性採用はイメージアップ
・職場の雰囲気が明るくなる
・男性の生活体制(衣食)にも影響を与える
・女性の頑張る意識が社会全体にも影響を与える
・女性の結婚後、特に出産後に職場でのリスクが発生する
・上記の事柄を解消するためには多様な生き方が可能な社会が必要だが、なにより男性が変わる必要がある。
・今まで「男性が変わる」といった議論が存在したか
・仕事をしつつ育児も家事もこなすという夫の在りようは、母親が息子をどう育てたかによる。

6.更にどうしたら女性研究者・技術者を増やせるかについて意見交換しました。
・個人の努力に期待するには限度がある。社会、制度から変えるというトップダウンの仕組が必要
・現場では当然利益が優先されるため、トップダウン方式で数値目標を示しての努力も必要。

時間の制限でまとめはできませんでしたが、多くの参加者により活発な意見交換がなされました。

ポスター展示(写真集)


主催者挨拶

男女共同参画学協会連絡会第三回シンポジウムに寄せて
第3期幹事学会:日本化学会 会長 村井眞二氏

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 活動の推進に勢いと大きな流れができつつある-このことが実感される2005年といえましょう。このような時期に、男女共同参画学協会連絡会第三回シンポジウムの主催者としてご挨拶申し上げますことは光栄であり、また大きな責任を感じるところであります。

 男女共同参画学協会連絡会は、自然科学系の多くの学協会が、応用物理学会、日本物理学会ならびに日本化学会の呼びかけに賛同して集結し、平成14年10月7日に発足したものです。このような専門領域を超えての連携は我が国で初めてであるばかりではなく、国際的にも注目されています。以後、毎年10月7日にシンポジウムが開催されています。第1回目は「1周年記念シンポジウム」(15年 於化学会館)、第2回目は、「設立2周年記念シンポジウム」(16年 於東京大学駒場)に見られるように「設立」の勢いを反映した会名でしたが、本年は単に「第三回シンポジウム」とされたのも、当活動が確実に軌道にのったことを裏づけるものでしょう。

 シンポジウムテーマは第1回「男女が共に生きる社会へ」、第2回「多様化する科学技術研究者の理想像:学協会アンケートが示すもの」でありました。本年のテーマは「21世紀の産業を拓く男女共同参画社会」です。これまでのテーマが主に大学、研究所の研究者に焦点を当ててきたのに対し、今回は産業界における技術者、研究者、また科学の仕事を目指す学生にも視野を広げて男女共同参画を考えようというものであります。

 当学協会連絡協議会の活動が広がりを見せています。平成15年度文部科学省委託事業として「21世紀の多様化する科学技術研究者の理想像―男女共同参画推進のために―」の報告書を平成16年3月に発表しています。一方、日本学術会議では、理系学会や男女共同参画学協会連絡会のこれまでの活動をベースに応用物理学研究連絡会、工学共通基盤研究連絡会における専門委員会の合同委員会で議論が重ねられてきました。これを基に、日本学術会議主催公開講演会「どこまで進んだ男女共同参画」が平成16年11月24日に開催されました(日本学術会議)。この公開講座の内容は雑誌「学術の動向」2005年4月号に詳しくまとめられています。文部科学省は18年度予算概算要求を本年8月31日に出しました(科学新聞、2005年9月9日)。その中に、女性研究者の活躍推進のため、出産・育児等による研究中断からの復帰支援のため2億2千800万円を、科学技術分野で活躍する女性研究者のロールモデルを示したり、シンポジウムを開催するため4千700万円を新規要求しています。今回の主催者である日本化学会から2点述べさせて頂きます。男女共同参画学協会連絡会の動きに呼応して日本化学会内に男女共同参画推進委員会(相馬芳枝委員長)が平成14年9月に発足し、理事会や委員会の役員に女性の登用を増やす事などを含むいくつかの要望を提出しました(化学と工業、2004年、1月号、P55)。この要望がベースとなり、平成16年9月の理事会で新たに女性理事枠1を設ける事が決定され、早速上記推進委員会から会長に推薦された女性理事候補3人を通常の代議員会の選挙に供し、平成17年2月に女性理事枠としての理事が任命されました。(西川恵子 千葉大教授)。先進的な取組みであるとの自負があります。一方、国際的に見れば、女性理事枠を確保せねばならぬという必要性自体が後進性を示していることをTIME誌の本件に対する指摘(TIME 2005年3月 28日号pp.58 )を待つまでもなく認識しておくべきことであります。次の報告です。物理学の世界組織としてIUPAPがあります。これに相応する化学の世界組織としてIUPAC(国際純正応用化学連合)があり、世界65ヶ国の化学者による国際機関として活動しています。本年8月に北京で行われた同連合の総会で、同連合85年の歴史上初めての女性会長として我が国の松本和子早稲田大学教授が選出されました。2008年に就任予定であります。

 本シンポジウムは日本化学会と日本原子力学会がお世話させていただいております。最後になりましたが、今回のシンポジウムをご支援いただいておりますご来賓の皆様方、会場をご提供頂きましたお茶の水女子大学様、また、特別講演とパネル討論会の講師をお引き受け頂きました先生方に改めて感謝申し上げます。男性・女性が共に力を発揮できるような社会状況を作り出すために、力を合わせて活動をつづけたいものと念じております。

来賓挨拶

日本経済団体連合会常務理事 鈴木正人氏

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 ご紹介いただきました日本経団連の鈴木と申します。いつも皆様方には、大変、いろいろな分野でご協力、またご寄託いただいておりますことを厚く御礼申し上げたいと存じます。

本日は男女共同参画学協会の第3回シンポジウムと伺っておりますけれど、多数の方々がご参加されて、盛大な形で開かれますことを、まずは心からお喜び申し上げたいと存じております。

 改めて申し上げるまでも無いことでございますが、わが国の社会経済情勢というもの急激にかつ大きく変貌を遂げているわけでございます。そうした中で、男女が互いにその立場を尊重しつつ、かつ責任を分かち合って性別に関わらず個性や能力を存分に発揮していく社会を実現する、これはわが国にとりまして喫緊の課題であるというように認識をいたしております。99年の6月には男女共同参画社会基本法というものが制定されましたが、これは皆様よくご存知の通りでございます。私ども日本経団連におきましても、経営をとりまく環境というものが、日々大きく変わっておりますが、企業が存続していくためにも、性別や年齢等にこだわることなく、多様で能力の高い人材を活かしていく、個人それぞれが持つ強みとか、持ち味を十分に活用していくということが一段と重要である、という観点から、男女共同参画の必要性を強く認識しておりますし、同時に会員企業をはじめ広く社会に訴えているところでございます。男女共同参画学協会連絡会におかれましては、理工学系の学協会がお集まりになりまして、科学技術の分野におきまして、男女が共に、個性、また能力を存分に発揮できる環境の実現、そしてネットワーク作りを真に取り組まれている、そのように伺っております。是非ともこの連絡会の力強い牽引力のもとに科学技術分野における男女共同参画というものが一段と促進されまして、そこから大きな成果、また高い業績が生まれてくることを大いに期待したい、と存じております。

 最後になりましたが、ご参加の皆様方の今後ますますのご活躍とご健勝を祈念申し上げまして、簡単ではございますが、お祝いのご挨拶とさせていただきます。本日はまことにありがとうございました。

文部科学省 科学技術・学術政策局長 丸山剛司氏

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 みなさまこんにちは。ただいまご紹介いただきました、文部科学省の科学技術学術政策局長をしております丸山でございます。今日は私、生まれて初めて女子大というところに来て、個人的に男女共同参画ができたな、と思って、大変喜んでおる次第でございます。先ほど村井先生の方からご紹介有りましたとおり、この男女共同参画学協会連絡会のシンポジウム、3回を迎えられたということで、これまでの関係者の皆様の活動、ご苦労に対して深く感謝申し上げる次第でございます。ご案内のように、科学技術の分野における男女共同参画の推進と言う問題は、それぞれの分野ごとに色んな事情を抱えておりまして、議論の集約が難しい点もありますけども、そういうことを乗り越えて、男女共同参画学協会連絡会の活動というものが、共通の問題意識というものを取りまとめて、いろいろな提言、あるいはシンポジウムを開催、更には女子高校生の夏の学校というような精力的な活動を行っておられることを高く、私ども評価しておるところでございます。ご案内のように、現在国際的な知の大競争時代という中で、いよいよ本格的な人口減少を迎える日本にとりまして、科学技術を担う人材というものは非常に重要でございます。これが、科学技術創造立国の長期的な礎と言っても過言ではないと思います。そういう中で、わが国は女性の活躍という点で、諸外国に比べて非常に遅れをとっていて、この問題にはすぐに取り組まなければならないと言う風に認識をしております。研究者の単に数という問題ではなくて、わが国の研究開発を活性化するためにも、女性と男性が同じ職場で、共に能力を発揮できるような環境を作る。これが非常に重要ではないかと思っています。そういったことを考えます時に、男子に比べて理工系を志す女子生徒、年代が若い方にもそういう方が少ないということも大きな問題でございます。こういう問題意識の下で、先ほど村井先生からご紹介がありましたが、来年度に向けまして、3つの概算要求をしております。

 一つは、科学技術の分野を目指す女子学生や生徒の進路選択の支援ということで、具体的には、女性研究者と学生や生徒との交流の機会を作って、ああいう人になりたいな、という志を持つ人が少しでも増えるような政策、これをやっていきたい。これが一点目でございます。

 それから2番目はもっと大きな構造的な問題ですけれども、出産・育児と言う問題に直面したときに、どうしても研究を中断させざるを得ない、というようなことがありますけども、それを、復帰を容易にするような支援策を講ずる、ということで、これは今日本学術振興会の予算ということで、考えております。

 それから、3点目はさきほどご紹介がありませんでしたけれども、私どもの文部科学省にあります、科学技術振興調整費というものを使いまして、女性研究者が活躍できるような体制整備に積極的に取り組む機関を応援するような政策を考えたい。これは、国立大学が法人化して、それぞれの大学が色々な形で特色を活かして努力しておりますが、そういう中で、女性をむしろ積極的に取り込むアイディアを競争していただく、というようなことで、良いアイディアに対して支援をしていく、ということを考えております。数字を申し上げられないのは予算が大変厳しいので、取れなかった場合には、私ちょっと来年ここに2度と来れないと思っておりますが、それは冗談として、非常に重要でございますので、全力を挙げて予算の獲得に努めたいという風に考えております。

 ちょっと話は変わりますが、今回のシンポジウムのテーマにありますように、アカデミックキャリアパスを目指すということではなくて、やはり産業界における技術者、研究者、科学者の仕事を目指すというキャリアパスの多様化ということを考えていくのが非常に男女共同参画の中でもまた重要な問題であるというように考えております。たまたま先般、野口宇宙飛行士がディスカバリーで宇宙に行って帰られて日本で会合がありましたけれども、あのディスカバリー号の船長は、アイリーン・コリンズさんという皆さんもご存知の女性の船長です。研究者ではありませんけれど、当然、船長と言う重責を女性が担っているというようなことが非常に象徴的だなあと思った次第でございます。

 それから、さきほども申し上げましたように、やはりキャリアパスの多様化、これは男性、女性に限らず、多様化のための取り組み、それから社会のニーズに適応した人材の育成、こういった政策をきちんと進めて行きたいという風に考えております。科学技術分野における男女共同参画という問題は、本当に皆様方のご努力で、非常に盛り上がりを見せていると言うように考えておりまして、今、政府部内で検討中の来年の4月から始まります、第3期の科学技術基本計画においても、この男女共同参画を科学技術分野でどう考えるか、という問題は、非常に重要な柱になると考えております。特に、育児と研究の両立の支援などは重要でありますし、男女共同参画の基本計画の中でも、今、科学技術分野での重要性を取り上げられる方向で検討されておる、と伺っております。また、学術会議においても、提言もなされておりますので、文部科学省としては、内閣府の総合科学技術会議等ともよく連絡をしながら、政府全体として一丸となってがんばって行きたいという風に考えております。

 最後になりますけれども、この会を運営されました学協会の先生方、それから会場を提供していただいたお茶の水女子大学郷学長はじめ皆様に、改めて御礼を申し上げますと共に、関係の皆様の更なるご発展を祈念して、私のご挨拶とさせていただきます。今日は、どうもおめでとうございました。

経済産業省資源エネルギー庁新エネルギー対策課課長 荒木由季子氏

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 ご紹介いただきました、経済産業省の荒木でございます。本日、ここに何故呼ばれたかというのを、ご依頼を受けたときにふと考えました。私の現在の仕事は、新エネルギー対策課長ということで、新エネルギーの導入という施策をしているのですが、男女共同参画の施策をやっているわけでもございませんし、科学技術の方に関わっているわけでもないのですけども、恐らく、産業界の方々との接点が多いということと、私が女性としてこれまで一応ウン十年くらい仕事をしてきたということもあって、個人的にお声がかかったのかな、と思っております。従いまして、組織を代表してご挨拶させていただくというよりは、個人の思いも含めて、第3回のシンポジウムのお祝いの意も込めて、挨拶させていただきたいと思います。

 科学技術分野での女性の活躍をどのように後押ししていくかということについては、色々な議論があるだろうと思います。それは恐らく、科学技術あるいは産業界の話の中だけではなくて、そもそも、広い意味での男女共同参画をどのように進めていくかという共通の課題もあろうかと思います。特に女性のライフスタイル、ライフサイクルに合わせて、それを仕事と上手くあわせていくということが非常に難しいという意味では、どの仕事に就こうと共通の課題であるかとは思いますが、今日は、私の若干個人的な話も含めて2つほど、女性が科学技術分野あるいは産業界で活躍していく上で、今後どういう風にしたらいいかということを、大変僭越ではございますが、お話をさせていただきたいと思います。

 一つは、数は力なりということだと思います。さきほど、日本化学会の村井会長から、理事の一つのポストを女性に割り当てたことに対して、アメリカから色んな話があったということでございましたけれども、いわゆるクォーター制のような形で、女性の比率の目標を決めてやっていくということについては、賛否両論ございます。もちろん男性の側からもいろいろございますが、女性の中でも特に若い方では、そういうやり方に対して反対のことをおっしゃる方もいらっしゃいます。あるいは、鶏と卵みたいなものであって、女性が少ないのはそもそも母体として女性が入ってこないからだ、そういう少ない女性の中で、理事とか、ある程度のポストを割り振るのはいかがなものかという議論も当然あります。ただ、私の実感として、いろんな問題はあるものの、クォーター制、あるいは目標でも良いけども、そういうものを掲げること自身が俄かに悪いことでは無いとは思っています。女性のその分野における活躍される方の数が増えていくということが、大変な力になるという風に思っています。と言いますのは、私自身工学部の出身でございますが、今は行政官でございますので、何ら科学技術には貢献していないわけですけど、工学部にいた時、当時、学部で一学年1000人いる学生のうち、女子学生は僅か8人でした。別に8人だからといって、何かが不便だったかというと、トイレの数が少ないくらいで、勉強する上で特段、不便では無かったけれど、もっと数が居ると違ったのになあ、という思いを抱いたのは事実でございます。当然、就職する時にもそういう思いはございましたし、そういう意味では、女性の数が増えてくるということが大変大事なことでございます。そのために色んなことをやらなければいけないと思います。割り当てとか目標についてはいろいろな是非論があるかと思いますが、どういう風に女性の数を増やしていくか、要するに裾野を広げていくかということは、私も考えなければいけないと思っております。その中で、女性が科学技術に向いているかという話があります。私自身子供が2人おりまして、一人は男の子、一人は女の子です。私自身は男女の教育について、家庭のなかで、男女の区別無く育ててきたつもりですが、息子の方は古典・歴史などに興味があり、娘は理科系が好きです。これは、私が工学部だったからというわけでは全然無いと思います。子供を育てている実感として、男の子と女の子の興味は、特段男の子が工学、理科的なものが好きで女の子が文系が好きというわけでは全く無いのだなあということを実感しました。ただ、この子供の興味がこれから、中学、高校、大学となっていったときにどれだけ、初期に持った自分の興味という物を発展させていけるのだろうかということを、私としては若干気にしております。というのは、笑い話ではありますが、私のアメリカ人の友人で、プラズマ工学を勉強していた女性がおります。彼女とは、私がアメリカのMITに留学した時に親しくさせていただいて、いろんな話をさせていただいたのですが、彼女が言っていた面白いことで、やはりアメリカでもそうかなと思ったのですが、彼女が高校生のときに工学系に進みたいと言っていたのですが、理科系に進むのは女性にとって不利なのよね、と言うんですね。やっぱりアメリカでもそういうことはあるの?就職とか、と思ったら、そうではなくて、男性からデートに誘われない、声がかかりにくいというわけなんですね。理工学を目指す女性というのは何となく怖いイメージがあるので、デートに誘われにくくなる。だから、女の子はみな、そういう難しいことはやらずに、何となく文学とか歴史とかそういうところに進んでしまうのよ、と彼女は言っていました。半分冗談だとおもいますが、そういう文化的な部分もあろうかと思います。実際、個々の家庭の中でも、私も若干そういうことを言われたけれども、女性が理工学系に進むと言うことに関して、親なり親戚なりが、そんなところに進んでどうするの?嫁の貰い手が無くなるよみたいな話があるのは事実でございます。今やそんなことは無いと思いますけれど、そういう文化的な面も私はバカにできないと思います。そういう意味では、子供のもった自分の素朴な科学的な興味を、社会としてどれだけ育てられるかということも、私は関心を持っています。従いまして、さきほど、高校生の女子学生に対するいろんな支援という話もございましたけれども、やはり小学校のときから一貫して大学教育まで、どうやって、女性のそういった関心をエンカレッジできるかということが、私は大変大事だと思っております。

 二つ目はリーダシップの問題だと思っております。女性の社会参加、科学技術の分野にしろ、産業界にしろ、確かに最近、仕事を続けてがんばっておられる女性が多くなってきている。ただし、色んなデータから、意思決定に関わる立場におられる女性の数というのはやはり非常に少ない。多分、諸外国と比べても非常に少ないといわれていると思います。これも鶏と卵の関係で、女性にそれだけのことを任せられるのだろうかということをはっきりおっしゃられる方が大変多いのですけれど、私自身は、これは、先ほどの教育の話とも関わるのですが、女性に非常に早い時期からリーダーシップを発揮できる経験をどれだけさせられるかという、こういう社会をつくっていくことだという風に思っております。私自身は、実は中学・高校と女子高にいたのですけれども、アメリカでも女子大の役割というのが、私が留学した時非常に議論になっていたのですけれども、もう女子大の役割は無いんじゃないかと、そういう風に言われている中で、女性ばかりの中で、全て女性がやらなければならないということのなかで自ずと、リーダーシップが涵養されるという側面があるんじゃないかという議論があったのですけれども、私自身もそういうことがあったかなと思っています。やはり女性に対して、失敗しながらも何か重要な仕事、責任のある仕事・役割、こういうものをできるだけ早いうちから経験できるような環境を与えなければ、責任のある仕事をやれと言っても、中々難しいんじゃないかと思っております。従って、科学技術分野、あるいは産業界に於いてもですね、例えば、大学なら大学の学生のときから、企業であれば企業に入った時から、そういうチャンスというのをいかに女性に作っていくかと言うことを、関係者の方には是非お願いしたいと思っております。私どものような行政官は、ある意味で言うと、国家公務員や地方公務員もそうかもしれませんけど、公的な分野の立場の者として、基本的には均等な機会を与えられている、と言う風に思っておりますので、そういった意味で、いろんなチャンスを与えていただいて、当然失敗も沢山してきておりますけれども、そういった中で、色々な経験をして、私にリーダーシップがあるかどうかわかりませんけれども、そういう経験をすることの重要性を感じておりますので、早い時期から女性に対しても、科学技術分野でも、あるいは産業界でもリーダーシップを発揮できるような、あるいは経験できるようなチャンスを是非作っていただくことが大事だと思っております。ちょっと長くりましたし、自分の思いがこもってしまいましたが、私としては、その2つを自分の経験の中から申し上げて、大変雑駁ではございますけれどもご挨拶とさせていただきたいと思います。最後に、このシンポジウムは3回目と伺っております。毎回毎回、こういった形で大変熱心に開催されていることに敬意を表したいと思っております。この開催にあたりましては、関係の方々の皆様方のご努力があったものと思っております。私も本当はこのシンポジウムを全部聞きたいところではありますが、仕事の関係で残念ながら出来ませんけれども、是非、この結果については後からお話を伺って、私自身の仕事の中でできることをやっていきたいと思っております。本日は盛大なシンポジウムの開催、本当におめでとうございます。

歓迎の辞

お茶の水女子大学学長 郷 通子氏

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 みなさま、こんにちは。ようこそお茶の水女子大学にお越しくださいました。

 先ほど来賓の方から、今日初めてこの大学に足を踏み入れて下さったというお話を伺いました。この大学は今年で130周年という大変古い歴史を持っていて、国が明治8年、最高の教育を女性にしていただくために作ってくださった古い歴史のある大学でございます。しかし、女性が学長になりましたのは、私の前の本田学長が初めてでございます。私はこの4月から本田先生の後を継いで、女性としては2人目の学長でございまして、そういう意味では、女子大でありながら今まで女性がトップに居なかったというちょっと不思議な所でございます。これも、男女共同参画学協会連絡会のようなものができて、世の中の動きが男女共同参画という形に大きなうねりになって動き出してきたと言う中で、色々なところで、少しずつではありますけれど、女性が意思決定できるところに沢山入るようになったのだろうと、私もその中の一人として、さきほど荒木課長からお言葉をいただきましたように、女子大学は一時生存の危機に瀕しましたけれども、法人化という新たな時代の流れの中で個性を発揮する、小さな大学でありながらも、それなりに光るものをと言う形で、がんばって行きたいと思っております。先ほどリーダーを育てるためには、女子大というのは必要だとおっしゃっていただきまして、私も全く同じ思いでおります。本学におきましては、社会のいろんな分野でリーダーシップをとれる人を、総力を挙げて養成していける仕組みを新たに作りたいと思っております。

 歓迎の辞としてはちょっとどうかと思いますが、本学でこんなことをやっておりますということをご紹介して、女子大なので有る意味では当然やるべきこと、しかし中々そう簡単ではないけれどやれることというのがありますので、もしかしたら本日この場にいらしている方々のそれぞれの機関で、こんなことだったらうちでもできるんじゃない?という風に思っていただけることがあるかもしれませんので、少しこの場を借りて、ご紹介させていただきたいと思います。

 女性研究者の育成ということではいくつかありますが、特に一つご紹介したいと思いますのは、120周年記念桜蔭会国際交流奨励賞です。10年前に桜蔭会という同窓会からのご寄付をいただいて、大学院生あるいはポスドクレベルの方に、海外の先端的な研究をしておられる方との共同研究をして貰うための奨学金という形で、最高200万円までで、1年とか長期間行っていただくための奨学金でございまして、額から言いましても大学としてはかなり大きなものを差し上げているのではないかと思います。

 アフガニスタンの女性教育を振興するお手伝いを、5つの女子大学、奈良女子大学と、日本女子大学、東京女子大学、津田塾大学でコンソーシアムを作りまして、第1期3年が終わり、今は第2期5年の新しい契約を結びました。アフガニスタンの女性の方々をお迎えして、付属中学で研修なども行っております。

 育児支援というのはどこの大学でも最近は始められていると思います。本学の中には保育園までございます。授乳室というのもございます。特徴としては、この4月から、大学院生で私どもの保育園に預けた人に保育料の半額の援助を、奨学金と言う形で始めました。ほかの大学では多分まだここまでなさってないと思います。これを学部まで広げて欲しいという声もありますが、今のところ財政上の問題で、大学院生にさせていただいています。それから、育児休業を取らない教員の方たち、つまり研究上のこととか、学生指導の関係でお子さん出産後も育児休業を取らない方には、授業、委員会などの大学の中の仕事を軽減させていただいております。具体的には非常勤講師の手当てをお付けしています。それは大学で費用負担しております。男性も女性も支援しておりますので、実際、男性の先生もこれを使っておられる方がございます。それから、非常勤職員の方の育児休業、それから介護休業もお取りしております。今のところ随分たくさんのことを、やれる限りのことを予算の許す中で、苦しい中ではございますけれど、支援をさせていただいています。

 研究のことで2つほど。お茶の水女子大学は、21世紀COEに採択していただいておりまして、その一つが、「誕生から死までの人間発達科学」でございます。これは、乳幼児から老齢まで、発達心理学の立場から様々の問題を視野に入れた、特に女性の一生というもの、あるいは女性だけでなく生涯発達の追跡研究をしております。実際には幼児虐待の問題ですとかを、研究もしながらカウンセリングもやりながらと言う形で進めております。

 もう一つの21世紀COEプログラムは、「ジェンダー研究のフロンティア」でございます。これは男女共同参画社会の実現に向けていろいろな問題を発信していくと同時に、アジアを中心に、世界のジェンダー教育・研究の発展に資する拠点にしたいということでございます。これから学際的に、科学や医療技術などの未開拓研究領域の開拓にも努めて行きたいということで、一生懸命やっております。

 次に女性教員の登用ということでございます。本学は女子大学で、女性教員の割合は他の国立大学に比べると一番多いけれども、まだまだ色々問題がございます。女性の教員の採用と言う点では、学位、業績ですとか能力が同じくらいだったら女性を優先するという取り決めがございます。

 それから、ロールモデルを学生さんたちに沢山見ていただこうと、名誉博士号を設けました。これは、世界的に著名な業績を上げた女性研究者や、卓越した女性リーダーを表しようということです。第1号が緒方貞子さんで、今まで国内外6名の方を出しております。

 次は、女性支援の活動の一環で、企業など社会での女性リーダーとして育ってもらうための事業でございます。キャリア支援に関する将来構想計画などの相談もしておりますし、人権侵害に対する対応も、一生懸命やっております。実は人権の問題というのは、付属学校でも色々と課題がございますので、全学を挙げて大変な努力をしていただいております。

 女性教員の割合ですが、少し古いデータで、管理職は42%、講師以上の女性は38%です。今はもう少し上がっていると思います。全国平均16%と比べていただきましたらやはり多いと思いますが、私は、ゆくゆくは50%にしたいと思っております。全教員48%ありますのは、ポスドクの方と助手の方も含めますとこの数字になります。講師以上の方が50%というのを、私は目標にしたいと思っております。事務職員の方は32%でこれもできれば50%になっていただきたい。国立大学として国から支援していただいている、奈良女子大学とお茶の水女子大学という2つの女子大学が、女性を育てていくためのモデル機関として色々試させて頂いていることを、他の機関の皆様方にもお役に立てるように、がんばって行きたいと思っております。

 最後に、ご紹介を兼ねましてお時間をいただきましたけれども、今日はこの機会に、大勢の方々にこの大学をご覧いただくと言う意味でも、大変貴重な機会をいただきました。こういう機会には、これからまだまだいくらでも大学を使っていただきたいと思います。場所的には、便利なところに思いますし、ちょっと奥の方に行っていただきますと、緑が多くて、都心にありますけれども少しほっとしていただけるところもございます。また色々な面でご示唆も頂きたいと思いますし、こういう場を使っていただければ、喜んでお手伝いしたいと思います。今日はこれからまだ特別講演とか、大変大事なシンポジウムがあると思いますので、大変長くなって申し訳ございませんでした。今日はどうぞ、ごゆっくりとこの大学でお過ごしくださいますように。どうもありがとうございました。

特別講演

「働きつづけられる職場から、ともに働きやすい職場へ」
(株)資生堂R&D企画部学術室 長沼雅子氏

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 今から30数年前、今でいう就職活動というのは理学部の女学生にとってはあまり縁の無いものでした。というのは、女性を公募している職場としては、各種公的研究機関を含めた公務員と教師位しかなかったからです。私企業では、教授のつても含めた縁故採用に頼っている状況でしたが、その時代にも既に資生堂は、理系女性を公募していました。

 しかしながら、女性に期待されているのは、即戦力としての実験補助的な仕事でした。そして多くの同期入社の人は、結婚や出産を機に退社していきました。そんな中でも私がいた職場では、先輩の女性たちが結婚し出産し育児をしながら仕事を続けていました。産前産後の休暇や一般の休暇制度さえも今とは比べ物にならないくらい厳しい育児環境でした。しかし一番の大敵、男性の目をかなり和らげてくれた先輩達のお陰で、それに続く私達は大層楽な目をさせていただきました。いつの世にも道を切り開くパイオニアがいて、徐々にではありますが状況は開けていくものと実感しています。誰も何も言わない・しない状況では進歩はありえないのです。

 私が出産をしたときはと比べると職場の制度の充実振りは目を見張るばかりです。資生堂の制度について講演の中で紹介をさせていただきます。また就業しつづけるのが困難になるのは育児ばかりではなく、介護の必要が生じた時です。このような事態に対応しては介護休業制度もあります。

 1985年の男女雇用機会均等法成立以後多くの女性研究員が活躍するようになり、研究所ではこれら制度が非常に活用されている状況で常に育児休業中の人が何人もいるまでになっています。出産を機に退職する必要が無いことは非常に喜ぶべき状態とは思います。しかし、現在の大きな問題は、育児休業を取る人は女性に限っているということです。全社的に見ても非常に珍しく、まだまだ男性にまで広がっているとはいいがたい状況です。

 仕事の中でも、研究業務は、それぞれ個人の創造性によるところが大きいことから、時間的制約は比較的少ない職場だと思います(ただ部署によってはそうはいかないことも多々ありますが)。仕事を続けていくためには、自分は何ができるのか、何がしたいのかを見定める必要があると思います。これは女性ばかりでなく男性も同じ時代になってきつつあるのでしょう。とりあえず長く勤めればいいのか、専門的な仕事をしたいのか、管理的な仕事をしたいのかそれによっても仕事の仕方が違ってくるでしょう。また企業のほうもそれぞれの働き方が選択できる、そしてそれは優劣の関係ではなく並列で選択できる制度をこれから整備していく必要があります。これからは、それぞれがよく考えて選択する時代になるのだと思います。

 今後は、女性が出産した場合はもちろんのこと、男性でお子さんができた時にも、「育児休業を取るの?」と普通に聞ける時代になれば、また介護が必要な時も男女を問わず育児休業をとる時代になれば、新の意味での男女共同参画社会(仕事も育児も、そして介護も)、ともに働きやすい職場になることでしょう。

 そのためにできることは、まず自分から、そして自分の子供からかもしれません。

「科学技術分野における男女共同参画」
内閣府男女共同参画局調査課長 塩満典子氏

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 内閣府男女共同参画局では、男女共同参画社会の実現を目指し、平成11年6月に施行された「男女共同参画社会基本法」、本法に基づいて平成12年12月に閣議決定された男女共同参画基本計画、男女共同参画会議(議長:内閣官房長官)の意見等に沿って、関係省庁との連携のもと施策を講じている。

 現行の男女共同参画基本計画に記される「具体的施策」は、第2期科学技術基本計画と同様に、平成13年度から17年度までの期間を対象としている。18年度以降についての計画策定のため、昨年7月に内閣総理大臣より男女共同参画会議に諮問が行われ、同会議の下に設置された2つの専門調査会において検討が進められ、本年7月末、「男女共同参画基本計画改定に当たっての基本的な考え方」を示す答申が出された。本答申においては、現行計画の11の重要目標分野に加え、新しい分野として科学技術が加えられた。今後、本答申に基づき、基本計画改定案(政府案)が作成され、男女共同参画会議への諮問・答申の後、年末を目途に次期男女共同参画基本計画が閣議決定される予定である。

 科学技術が男女共同参画を推進する新しい分野として注目された背景の一つに、男女共同参画学協会連絡会が2万件のアンケート回答結果をもとにまとめられた「21世紀の多様化する科学技術研究者の理想像―男女共同参画推進のために―」(平成16年3月)があると考えている。本報告書に描かれた男女の処遇差に関する研究者・技術者の意識、所属機関ごとの年齢による職位の推移、研究開発費の額及び部下の数、研究者の子育て状況等は、重要な示唆に富む。本年5月に閣議決定された平成17年版男女共同参画白書(特集テーマ:科学技術の進展と男女共同参画)のコラムにも紹介されている。また、昨年10月以降、男女共同参画学協会連絡会、日本分子生物学会、日本生物物理学会、日本女性科学者の会等の方々より貴重なご提案が提示されてきた。

 現在、総合科学技術会議においても、基本政策専門調査会を中心に、第3期科学技術基本計画に係る検討が進められている。第2期科学技術基本計画においては、人材の活用と多様なキャリア・パスの開拓のため、「男女共同参画の観点から、女性の研究者への採用機会等の確保及び勤務環境の充実を促進する。特に、女性研究者が継続的に研究開発活動に従事できるよう、出産後職場に復帰するまでの期間の研究能力の維持を図るため、研究にかかわる在宅での活動を支援するとともに、期限を限ってポストや研究費を手当てするなど、出産後の研究開発活動への復帰を促進する方法を整備する」ことが定められている。少子高齢化の進展等に伴い、将来の科学技術を支える研究者の量的・質的不足が懸念されている状況の中、多様性の確保の観点からも、女性研究者の更なる活躍が求められている。競争的研究資金制度の中では、日本学術振興会により研究者の育児と研究の両立支援のための措置が講じられ始めている。第3期計画においても更なる措置の充実が求められている。

 男女共同参画社会基本法は、男女共同参画社会を、「男女が、社会の対等な構成員として、自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保され、もって男女が均等に政治的、経済的、社会的及び文化的利益を享受することができ、かつ、共に責任を担うべき社会」と定義している。また、基本法においては、5つの基本理念が定められている:①男女の人権の尊重、②社会における制度又は慣行についての配慮、③政策等の立案及び決定への共同参画、④家庭生活における活動と他の活動の両立、⑤国際的協調。国は、これらの基本理念にのっとり、「積極的改善措置(ポジティブ・アクション)」を含む男女共同参画社会の形成の促進に関する施策を、総合的に策定し実施する責務を有している。地方公共団体も、国に準じた責務を有している。

 ポジティブ・アクションには様々な手法があり、その一つに目標数値とその達成期限を掲げるゴール・アンド・タイムテーブル方式がある。この方式は、日本学術会議において採用されており、平成12年6月に、女性会員比率を今後10年間で10%まで高めるという目標値を設定することが提言され、第17期の1.0%が、18期に3.3%、19期に6.2%と増加した経緯がある。本年10月からの20期の比率はどのように変化し、目標値に近づくか注目される。

 平成15年6月、男女共同参画推進本部(本部長:内閣総理大臣)は、「女性のチャレンジ支援策の推進に向けた意見」(男女共同参画会議意見(平成15年4月))に基づき、国連ナイロビ将来戦略勧告の目標数値等を踏まえ、「社会のあらゆる分野において、2020年までに、指導的地位に女性が占める割合が、少なくとも30%程度になるよう期待する。そのため、政府は民間に先行して積極的に女性の登用等に取り組むとともに、各分野においてそれぞれ目標数値と達成期限を定めた自主的な取組が進められることを奨励する」などのポジティブ・アクションを講じることを決定している。本年7月の男女共同参画会議の答申にも数値目標が盛り込まれた。

 科学技術分野においても、男女がともに個性と能力を十分に発揮できる男女共同参画社会の実現に向けた動きが活発化している。今後の持続的発展が期待される。

「多様な理工系女性の育成 -男女共同参画推進と大学の役割-」
日本女子大学理学部 小舘香椎子氏

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 私達は現在、いつでも、どこでも、情報を共有できるユビキタス社会にくらしています。先端産業・技術をめぐる競争がますます激しくなる中で、蓄積された知識や技術のみでは対処できない課題をすでに数多く抱えています。このような21世紀のリスク社会では、確かな基礎知識と専門能力に加えて、従来型の発想とは異なる多様な価値観や豊かな感性を持つ知的生産性の高い人材の育成がより一層必要になっています。特に、学術研究で世界をリードすることを目指す大学や企業などの研究機関は、自らの主体的な工夫と努力によって、活力に富み競争力のある男女共同参画推進の組織作りを目指すことが重要です。そして、そのためには、学術研究の担い手として女性研究者を含め様々な人々が能力を発揮して活躍できる環境作りが何よりも大切です。このような状況をうけて、大学では以下の事柄を積極的にかつ地道に取り運び実現を目指す事が望まれているといえるでしょう。

1. 総合的な視点の育成(基礎学力、思考力を磨き、自らを高める努力、実験教育の充実)

2. 強靭な意思とチャレンジ精神の発揮(幅を広げる経験へのチャレンジなど)

3. インターンシップや産学官連携研究の推進(肉体的、精神的な競争への参加の覚悟、交流による広い視点の育成)

4. 女性のネットワークの形成(国内外の学会・研究会への参加の推進(旅費の援助)、理系分野への高校生の勧誘(サマースクールの実施)

5. 多様なロールモデルの育成と提示(技術者・研究差・弁理士・教師・学芸員など)

6. リーダーシップの育成(独立した研究テーマによる自立、独創性の育成)

 私自身は、夢のレーザ光が実現した1960年代後半の、マイクロオプティクスの黎明期からその基礎と開発、光の並列性を生かしたアナログコンピューティングによる顔画像認識システムの構築、フォトニックネットワーク用機能デバイスの最近の研究に至るまで光技術のめざましい進展を経験し、楽しみながら今日まできました。大学で光学の基礎を学生に講義し、学園祭でホログラフィ実験を自主研究として指導する中で、探究心が啓発され、自信を養い、わくわくするような体験に出会うとき、また卒業研究で、産学連携研究の中でプロの研究者と思う存分意見交換ができるときに、自分が携わり拓いていけるテーマが沢山ある事を感じ、大学院へ、研究者の道へ、進む熱心で活発な女子学生達が確実に育っているのを実感しています。

パネル討論「産・官・学・男・女-真の共同参画社会を目指して」

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(パネリスト左から 舘氏、辻氏、淺川氏、井上氏)
       

司会:
井上祥平氏(東京理科大学)
パネリスト:
淺川智恵子氏(日本IBM)
辻 篤子氏(朝日新聞)
舘 かおる氏(お茶の水女子大学ジェンダー研究センター)

井上:今回はパネリストの方が3人とも女性だったので、男性一人、司会をすることになりました。3人の方には事前に「キャリアのために、進学、就職あるいは会社対応などのそれぞれの段階で、どこの段階が一番重要と思われますか」ということを中心にお話いただきたいとお願いしました。まず自己紹介を含めて10分程度でパネリストの方にお話いただきたいと思います。

浅川:1985年に専門女性研究者としてIBM に入社いたしました。以降、私は目が見えないのですが、さまざまな視覚障害者支援関連のプロジェクトに関わりまして20年になります。最初にIBM における男女共同参画活動に関する取り組みの歴史についてご紹介したいと思います。女性の参政権が認められる20年前の1899年に、3人の女性正社員を採用しています。さまざまな女性の活用が進められてきて、1998年にはウーマンテクノロジー(WIT)というグループが活動を開始しました。1971年に入社した技術系の内永ゆか子さんが、2004年4月に女性初の開発製造担当の取締役専務、執行役員となっています。私自身は視覚障害者支援関連のプロジェクトとして、点字ワープロソフト、ホームページリーダーの開発など、アクセシビリティを実現するための研究を続けてきました。企業において女性の技術者が少ないといわれています。徐々に職場環境の整備が行われてきていますが、その前の段階として理系に進む女子学生の数を増やすことが必要で、そのために技術系にいる女性の先輩として活動をしていかなればならないと感じています。女性のキャリアパスにとって重要なことはフレキシブルな職場環境、自分にあったフレキシブルな職場環境で働くことが最も重要ではありますが、同時にロングタームなビジョンを持って、自分自身でモチィべーションを高めていくことが重要だと思います。

辻:私は大学では理科系に入学したのですが、科学者になる道を諦めて科学史科学哲学科に進み、79年に朝日新聞に入社しました。その後大体科学関連の道を歩んできました。その間科学ジャーナリストのためのプログラム参加、科学担当特派員として、アメリカで3年過ごしました。その間女子大の取材をして、アメリカは女性のトップの半分くらいは女子大出身だとかで、共学のところでは女性はなかなかリーダーになれない、リーダーを育てるのが女子大の使命だということを痛感しました。やはり女性はアメリカでも大変だと思いました。男女共同参画社会推進のために必要なことのトップは「男性の意識改革」であるという気がしています。まだまだ女性が出て行くことが特別であるという意識が色濃い。なぜ女性がもっと出て行かなければならないかということを国民意識までを変えていかないと、うまく進んで行かないのではないかと思います。

舘:お茶の水女子大学ジェンダー研究センターは、最初に1975年に「女性向け資料館」として設置され、その後女性文化研究センターを経て1996年に新たに設立されました。そこで「ジェンダーと科学技術」をテーマに研究を進めるプロジェクトを担当していますのが私です。お茶の水大学には女性で初めて博士号を取得した自然科学分野のさまざまな研究者がいるので、その資料を作成して研究しました。若い世代へのメッセージとして広く紹介し、モチィベーションが高まったということも聞いています。次に「大学教育とジェンダー」ということで、大学における女性教員、女子学生の数について調査しました。そこで国立大学が今まで果たしてきた自然科学系の女性研究者の教育、学生の養成システムは非常に大事なものであることを改めて痛感しました。それでも、男女の違いが非常に顕著なのはやはり旧帝国大学系で、10校くらいが1割以上ですが、それ以外は1割以下というのがほとんど、女性教員が全然いないという大学もあります。また国際的にどのようにジェンダー研究が展開されているのかも調査しています。男女共同参画が科学技術政策のなかで位置づけられなければならない。ジェンダー支援化政策は民主主義の要である。年齢差も含めて男女の差にかぎらず多様な知性を生み出す人材管理が大事であり、平等について配慮しなければならないであろう。

(パネラー発言終了)

続いての会場との質疑応答では
フロア(男):「男性の意識の問題」で片づけるのは問題解決にはつながらないと思う。具体的に指摘して欲しい。
フロア(女):意識の問題よりももっと大事なのは具体的な施策であると思います。
フロア(男):女性は男性より10年長く生きますので、女性の定年を10年長くするとよいと思う。
フロア(女):社会全体を少しづつ変えていかないと、意識のレベルまで変えていくのは難しいと思います。
などの意見が出されました。

第3期男女共同参画学協会連絡会の活動報告

第3期委員長(日本化学会) 相馬芳枝氏

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 第3期は、日本原子力学会と日本化学会が幹事学会を仰せつかりました。
第1期幹事学会(応用物理学会、小舘香椎子委員長)のリーダーシップにより、大規模なアンケート「科学技術系専門職の男女共同参画実態調査」が行われ、これを受けて、第2期幹事学会(日本物理学会、坂東昌子委員長)が、男女共同参画をすすめるために2種類の提言をまとめておられる時期に引継ぎが行われました。2つの提言、すなわち「科学技術研究者に適した育児支援制度の整備に関する提言」は、昨年の2周年記念シンポジウム(10月7日)で承認され、「研究助成への申請枠拡大に関する提言」は11月9日の運営委員会で承認されました。

 私達は、2種類の提言を約400の政府関係機関、大学、研究機関、財団等に送るとともに、内閣府、文部科学省、経済産業省、農林水産省、厚生労働省等の男女共同参画推進担当者のところへ、直接に説明しに行きました。折りしも、第3期科学技術基本計画の策定が進行中でしたので、担当の方から第3期科学技術基本計画に反映させられるような行動をするように、アドバイスをいただきました。そこで、連絡会では「第3期科学技術基本計画に関する要望―男女共同参画社会実現のために―」という要望書を4月末にまとめて、内閣府に提出しました。更に、内閣府からの質問に応じて、女性研究者を増やす施策のバックデータとして52学協会の会員の女性比率調査結果と、女性研究者が増えた成功事例として国立遺伝学研究所のまとめを内閣府に提出しました。この女性比率調査は、日本分子生物学会の大坪久子先生の主導により行われたもので、生物系学会では女性比率が高いこと、どの学問分野においても学生会員の女性比率は、一般会員に比べて高いことが明らかになりました。この調査は、第3期連絡会の特筆すべきものであり、一般会員の女性比率が少ない分野では、女子学生がプロの研究者となる道を阻害する要因を解析する必要があることが指摘されております。

 文部科学省の平成18年度概算要求に、出産、育児等による研究中断からの復帰支援等、女性研究者の活躍を促進するための予算措置が盛り込まれており、連絡会の要望が生かされていることを感じます。今後、女性研究者・技術者が働きやすい環境整備が進み、女性研究者・技術者が増えることを切望します。

 今まで、文部科学省「学校基本調査」、国立大学協会調査書をはじめとして女性研究者に関する調査報告は沢山ありますが、その多くが大学関係者を対象としており、数の面で過半数を占めている産業界の女性科学者・技術者の実態が十分に把握されておりません。そこで、今期は産業界の女性科学者・技術者にも光をあてた活動をすることにし、産業界の女性科学者・技術者に関する勉強会を2回開催しました(講師:吉祥瑞枝氏、森 義仁氏)。本日の第三回シンポジウムでも、産業界の女性科学者・技術者を中心テーマにしております。 また、女性にもリーダーシップが必要であるということで、元文部大臣赤松良子先生をお招きし、「女性とリーダーシップ」という勉強会を行いました。

 現在の日本では、残念ながら理工系の女性科学者・技術者が少ないというのが実情であり、理工系の女性科学者を増やし、育てる種々の施策、啓蒙活動が必要であります。内閣府男女共同参画局で、理工系の女子学生を増やすチャレンジ・キャンペーンが行われているのは嬉しいことです。連絡会関係では、日本物理学会の鳥養映子先生のリーダーシップのもとに、女子高校生を理工系にいざなうための「女子高校生夏の学校」が始めての試みとして開催され(国立女子教育会館、8月22, 23日)、大成功をおさめました。関係者から、来年以降、この試みを拡大したいという要望が既に出ております。

 更に、女性研究者が正当に評価され、昇進すると同時に、各種の委員、審査員等に登用されることも重要であります。丁度、今年は日本学術会議が改革を行う年であり、会員候補者選考委員会から各学協会に対する「会員候補者に関する情報提供について」という依頼書の中で、30%の女性を含めるようにという要望が示されておりました。これに呼応して、28の自然科学系有志学協会から会員候補者選考委員会へ「なるべく多くの女性会員を選出してほしい」という主旨の要望書を提出しました。

 また、日本学術会議の改革に伴って、連絡会への入会資格を変更する必要が生じたことと、運営委員会の位置づけを明記するために、本会の規約を改訂しました。

 男女共同参画推進の活動は、各学協会でシンポジウムや各種の催しを通じて着実に進んでおり、現在、連絡会加盟学協会は47に達しております(正式加盟:27、オブザーバー:20)。特に、日本分子生物学会、日本生物物理学会、日本女性科学者の会でそれぞれに、更に進んだ内容の提言をまとめられたことは注目に値します。

 男女共同参画基本計画(平成12年に閣議決定)は、今年、改定作業が進められており、連絡会のメンバーも各地の公聴会へ参加し, 意見を出しました。科学技術分野における男女共同参画は、新たな取り組みを必要とするものとして位置づけられており、科学技術分野の男女共同参画が進むことを願わずにはおられません。

 第4期は、女性比率が高く、女性研究者の活躍が著しい日本分子生物学会(大隅典子委員長)が幹事をされることになっており、4番打者としての本格的なご指導のもとに連絡会の活動が躍進することを期待いたします。

 最後に、ご指導いただきました内閣府男女共同参画局の塩満典子調査課長、および微力な委員長にご協力いただきました運営委員会の皆様に厚くお礼申し上げます。 また、本日のシンポジウムの企画、準備にご尽力いただきました皆様、会場をご提供いただきましたお茶の水女子大学の関係各位に心より感謝申し上げます。

ポスター賞の発表


最優秀賞:日本分子生物学会
優秀賞:日本女性技術者フォーラム、日本化学会
ビジュアル賞:日本動物学会
ユニーク賞:日本電子情報通信学会
ユーモア賞:日本生理学会

閉会挨拶

日本原子力学会 会長 芹澤昭示氏


 本日はご多忙の中、本シンポジウムにご参加いただきまして、誠に有難うございます。男女共同参画学協会連絡会副幹事学会であります日本原子力学会を代表いたしまして御礼を申し上げます。

 原子力学会は、原子力分野における学術的貢献はもちろんのこと、原子力と社会を結ぶ役割も大切な使命であり、特にその面で女性の果たす役割は非常に大きなものがあります。女性と男性が共に個性と能力を発揮できる環境作りに皆様と共に大いに貢献したいと考えています。

 私自身は本日のシンポジウムには途中参加のため、午前中のプログラムには出席できませんでしたが、実りのある討論がなされたものと確信しております。午後はご来賓の方々にはご挨拶を賜り、また特別講演、そしてパネル討論など、関係された多くの方々のご努力、そしてお世話いただきました日本化学会の皆様方にも深く感謝申し上げます。

 先日、中国に出張した折、空港内の至るところに「男女平等は中国の基本的な国策である」という大きな看板を見かけました。是は1995年に北京で「第4回国連世界女性会議 平等・開発・平和のための行動」が開催されたのを契機に「男女平等を社会発展のための基本国策とする」ことが決まったそうです。今年は丁度10周年に相当し、全国キャンペーンが行われているということのようです。

 我が国におきましては平成11年に「男女共同参画社会基本法」が公布/施行され、さらには平成12年に「男女共同参画基本計画」が閣議決定され、男女共同参画が我が国社会の重要課題と位置づけられてから、既に6年余り経過しております。其の重要性に対する理解が徐々に広がりつつありますが、一般の方々がそのような国の施策を知っているかというと大変疑問に思っています。中国と日本では社会事情も大きく異なり、また「男女共同参画」と「男女平等」は似て非なる思想ですが、女性の社会での在り方について国を挙げて積極的に取り組んでいる姿勢には学ぶべきものがあります。

 何れに致しましても、男性、女性がそれぞれの持ち味を十分発揮し、様々な視点から科学技術へアプローチをすることが、日本の科学技術の発展には必要と認識しております。今後とも男女共同参画活動が一層活性化し、「男女共同参画」という言葉自身を意識しない日が来ることを願うものであります。皆様の一層のご支援をお願いいたす次第です。大変簡単ですが、これをもちまして閉会のご挨拶とさせていただきます。

懇親会


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