男女共同参画学協会連絡会 Japan Inter-Society Liaison Association Committee for Promoting Equal Participation of Men and Women in Science and Engineering Japan Inter-Society Liaison Association Committee for Promoting Equal Participation of Men and Women in Science and Engineering

第4回男女共同参画学協会連絡会シンポジウム報告書

第4回男女共同参画学協会連絡会シンポジウム報告書

 

― 育て、女性研究者!! 理工系女性研究者支援の新しい波 ―

  

開催日:2006年10月6日(金) 場所:東京大学・山上会館
 
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第4回男女共同参画学協会連絡会シンポジウム プログラム

 

分科会A:「女性研究者支援,有効な支援を目指して」

(コーディネーター:日本金属学会 御手洗容子氏,日本物理学会 田口善弘氏)

分科会Aでは「女性研究者支援,有効な支援を目指して」と題して,7つの組織から過去の経緯や現在の状況について報告して頂いた.タイトルと講演者は以下の通りである.

 1.武井ゆき氏 東京大学分子細胞生物学研究所博士研究員
  "東京大学で子育て"ホームページ開設までの道のり

 2.平田たつみ氏 国立遺伝学研究所助教授
  なぜ国立遺伝学研究所には女性教員が多いのか

 3.菅本晶夫氏 お茶の水女子大学教授
  お茶の水女子大学における女性研究者支援活動の現状

 4.斉藤加代子氏 東京女子医科大学遺伝子医療センター教授
  保育とワークシェアによる女性医学研究者支援

 5.矢口徹也氏 早稲田大学教育学部教授
  研究者養成のための男女平等プラン

 6.松岡由貴氏 奈良女子大学理学部物理科学科助手
  生涯にわたる女性研究者共助システムの構築

 7.清水賀代氏 日本女子大学理学部数物科学科講師
  日本女子大学における『女性研究者マルチキャリアパス支援モデル』

 学協会連絡会の使命は,昨期までは,現状について様々な調査を行い,行政に向けて施策を提案して行くという部分にあったが,今期からは実際に動き出した支援策の検証と改善策の提案が主な使命になって行くと思われる.その意味で,これら全ての講演は非常に有用なものであった.武井氏の講演では,所属組織の様々な情報を収集し,構成員に対して有用な形で提供して行くことの重要性が強調された.実際,当初は一研究所内のワークンググループに過ぎなかった組織が,最終的に「東京大学で子育て」という最上部組織全体に対する情報提供を行うまでに成長する過程は多いに参考なるものであった.一方で平田氏からは遺伝研に例をとって,若手重視,公募重視,という一般的に(男女共同参画という視点からだけではなく)好ましいと思われている施策の地道な実行が結果的に企まざる男女共同参画推進運動になっていることが報告されて,好感が持てた.菅本氏の講演は,一端は実行した男女共同参画推進の施策(育休中の手厚いサポート)が後退を余儀なくされた経験から,研究者としての生活サイクル自身の変革(9:00から17:00までしか働かない)が重要ではないかという提案がなされて興味深かった.斎藤氏の講演からは,日頃,接することがない「女医としての悩み(相対的に恵まれているために折角の施策が女医にまで回って来ない)」が報告され,男女共同参画には常に,現状に合わせた細かい施策を工夫していかなくてはならないことが伺われ,考えさせられた.矢口氏の講演では,大学全体で,積極的に男女共同参画を推進する(いわゆるトップダウン)動きが報告された.現場の声に押されて,ボトムアップ的に発展することが多い,男女共同参画運動としては異例のパターンであるが,これからの傾向としては多いに参考になった.松岡氏は地域との連携も含めた,現実に促した地道な支援活動(しかも,生涯を見据えた)が報告され,少人数の学科故のきめ細かい対応が報告され,考えさせられた.最後の清水氏の講演もその意味では同じ様な方向性であったということができると思うが,いわゆる職業婦人要請を設立の目的とした当該大学の歴史を踏まえた,地に足がついた支援体制には非常に感心させられた.

 学協会ではこの様な報告を参考にしながら,既に動き始めた施策をきめ細かくトレースし,問題点を洗い出し,次の施策へとつなげて行かなくてはならないことを改めて痛感させられた.今後は実際に動き始めた施策に対する揺り戻しや反感を緩和するためにも,男女共同参画がモラル的な平等思想を枠組を越えて,実際に有効な施策であること(例:研究組織のアクティビィティーの結果的な向上など)を社会に向けてアピールしていかねばならないだろう.そのためにもこの様な現状の状況報告を行う集りは重要であり,今後も継続して行って行くべきであろう.

 

分科会B:「新たな活躍の場をもとめてーフロンティアをめざす研究者」

(コーディネーター:日本動物学会 中辻孝子氏・鷲谷節子氏・箕浦高子氏)

大学院重点化やポスドク一万人計画で研究者人口が増える一方,アカデミアへの就職事情は年々厳しく,若い世代の将来への閉塞感は否めない.異分野での可能性を見出すべく,分科会Bでは,「新たな活躍の場をもとめてーフロンティアをめざす研究者」と題して,生物学のバックグラウンドを持ちながら現在はノンアカデミアで活躍されている3人の方々に講演をお願いした.タイトルと講演者は下記の通りである.

 1.村瀬 祥子 ベンチャービジネス 株式会社リプロセル取締役
  ベンチャーキャピタルと私の可能性

 2.榎木 英介 NPO法人サイエンス・コミュニケーション代表
  知が生かされる社会を目指して~サイエンス・コミュニケーションと男女共同参画

 3.橋本 裕子 日本科学未来館・科学技術スペシャリスト
  新たな出会いを楽しむために

村瀬祥子氏(理学博士・現(株)バイオマスター取締役CSO)は,ポスドク2年の後ベンチャーキャピタル(VC)に転向した.バイオ系ベンチャー企業(BV)を育成支援するVCでは,専門的知識を生かした技術的助言はもちろん,「目利き」の能力が問われる.研究者の視点からユーザーの視点へ,巧みな切替えが必要だったという.現在は多くのBVがあり,内容も企業としての成熟度も様々だ.安定した企業で研究者になるか,創期にクリエイターとして参画するか,自分の適性に合わせた選択が可能らしい.アカデミア以外の道に進むと「ドロップアウト」と見られるのでは?という問いには,我々のBVに対する「誤解」を指摘された.多くのBVではシーズを育てるため,ある程度広い範囲で研究を展開しており,そのための投資むしろアカデミアよりも潤沢だ.BVでの研究は我々の想像以上に自由度が高いらしい.会場からは,そのような魅力的な研究環境ならば,インターンシップや就職説明会等で積極的にしてほしいという声が出た.榎木英介氏(博士(医学))は,大学病院医師として勤務する傍ら,学生時代に設立したNPO法人サイエンス・コミュニケーションの代表理事として,研究者をめぐる様々な問題への提言や情報提供などの活動をされている.学協会連絡会でも政策提言は主要活動の一つであり,その方策について質問が挙がった.榎木氏は「政府の関心は高い.勉強会等で常にアンテナを張り,また提言だけで終わらせない努力も重要」とコメントされた.橋本裕子氏(理学博士・現 日本科学未来館 科学技術スペシャリスト)は,9年間のポスドクの後,40才でサイエンスライターに転向,5年後に現職に移られた.未来館には企画やインタープリターなどの任期職がある.生物系の出身者,女性が多く,その後は研究所広報や博物館等に転職するらしい.異なる分野の3人の話を伺ううちに「コミュニケーション」と「育成」という,共通のキーワードが見えてきた.また,「相撲部屋方式」というアイデアが共感を呼んだ.力士は修行で相撲とちゃんこ料理を同時に習う.ちゃんこ屋は引退後の生活の糧だけでなく,その地域の有望な子供を見つけ中央に送る「次世代育成基地」としても機能する訳だ.未来館などが先駆けて,企業や地方とも連携し,さらには育成の進む科学技術インタープリターも活用して「科学ちゃんこ」を実現すれば,同時に様々な問題への解決の糸口にもなるかもしれない.

 

分科会C:「実験教室から発信する!」

(コーディネーター:日本分子生物学会 金井正美氏,日本生物物理学会 原田慶恵氏)

女子学生が先入観を持つ事なく興味ある分野に進学し,将来の職業として理工系を選択出来るようなバックグランドを作る為に,学協会連絡会は,女子高生夏の学校を始め若年層に科学に親しんでもらう為のサポートを行ってきた.分科会Cでは「実験教室から発信する!」と題して,中・高校の教育現場で御活躍の三人の演者から,現場での実際の取り組み,各々の立場の意見を報告して頂いた.

 1.立教新座中学校・高等学校,NPO法人ガリレオ工房副理事長 古田 豊
  実験の楽しさを伝える「青少年のための科学の祭典」15年

 2.群馬県立高崎女子高等学校教頭 田口 哲男
  高崎女子高等学校におけるSSHの取組について

 3.原子力学会 武蔵工業大学 岡田往子
  2006年女子高校生夏の学校 実験・実習室から

青少年のための科学の祭典は1992年から15年間,累積入場者数421万人を数える一大イベントである.昨年度は86箇所57万人の来場者,平成18年度の全国大会では6日間で約6万人の来場者が約140の実験を開催している.今回は,本年度の様々な実験ブースやプレゼンテーションに関しての紹介とまた開催者サイドの勉強会風景など,科学の楽しさ,おもしろさを子供達に知ってもらう為の様々な報告があった.大学入試の高度化,小中学での理科実験の減少,高等学校における選択制の採用など多くの問題の中,親と小中高校の教師は知情意の園であり,研究者とは真善美の園であるべきであるという古田先生の言葉の重さを感じる発表であった.
http://www.kagakunosaiten.jp/

田口先生からは,群馬県立高崎女子高等学校におけるSSHの取り込み,平成15年度からSSH指定前後における学生,親,教師の意識改革等に関してのアンケートに基づく報告があった.最も印象深い結果の一つは,SSHに参加していない生徒においても指定校となることで,科学の重要性を認識する機会になっているとのことであった.また,高崎高校と高崎女子高校の双方に所属した田口先生の経験を生かした男女生徒のアンケートの比較は興味深く,フロアからも活発な討論が繰り広げられた.
http://www.takajo-hs.gsn.ed.jp/SSH/top.htm

「女子高校生夏の学校」は昨年から男女共同参画も主催として加わり執り行なわれている企画である.今年は8月17日から19日と昨年より1日長く,新企画として実験・実習を中日に新たに組込んだ.岡田先生からはそれぞれの実験の紹介と,岡田先生が実施された「来た,見た,わかった!~携帯電話の電波から宇宙線へ~」の実験を企画するに至ったプロセスの紹介が行われた.「お仕着せの何か」ではなく,興味が沸く実験,夢のある実験をどう組み立てるかを伝えることの困難さや意義を考えさせられる内容であった.
http://www.nwec.jp/program/invite/2006/page08.php

一人でも多くの小中高校生に「理科が好きです」と胸をはって答えてもらうよう,次世代への「科学伝承者」として動き出すことの大切さを改めて感じたセッションとなった.

 

全体会1

司会進行 近藤 高志氏(応用物理学会)

主催者挨拶  花岡文雄氏(日本分子生物学会会長・大阪大学教授)

あらゆる分野の代表の方々や個別に活動されている方々がここに集まられて大変光栄です.本連絡会も四年前の発足から今回で四回目,今回のトピックは女性研究者支援であり,徐々に成熟していっているといえるでしょう.

アメリカが世界をリードしているのは人種の多様性にあり,日本でもその多様性が必要です.また,ある学会にて藤山先生がお話していたのですが,人とチンパンジーの違いは生殖年齢の差にあります.そのため女性のパワーを活用することが少子化に対するものになるでしょう.医者や官僚になる若者が多い反面,研究者になる若者が少いので,多様化していくためにはそのような状況を改善すべきです .理系の女性は少なく,これを改善するには中学高校時代の学生環境から直していくべきです.さらに ,その少ない女子学生に比べて女性のPIはとても少数です.これは妊娠 ,子育てによるものが大きく ,そのバックアップを組織ぐるみのマンパワーによってなしていくことが必要でしょう.

男女ともにキャリアパスの多様性の受理が必要です.日本分子生物学会では次のような取り組みを行っています.まず,女性の研究者の参加のため保育施設を設置しました.次に,ライフサイエンスの分野における男女共同参画について提言を提出しました.また,学術会議との共同で男女共同参画制度の整備について提言しています.

(文責 電子情報通信学会 荒川 薫)

 

来賓挨拶  林幸秀氏(文部科学省文部科学審議官)

安倍総理の所信表明にイノベーション,教育再生というものがあり,これには優れた人材が大切です.しかし,若年層から科学離れが起こっています.アメリカでは外国人をうまく使っていますが,日本ではうまく使えているとはいえません.さらに若手をうまく使えてもいません.

定年後の方が活躍できる場を設けることもよいですが,女性の能力を発揮できる場の整備をすることも大切です .アジア諸国に比べても日本は女性の能力を発揮できる場が少ないです.それは高校で理系を選ぶ女性が少ないためです.

私達は女性研究者自然科学系25%の目標をかかげています.そのため,女子中高生理系進学支援を行っています.日本学術振興会での出産育児からの復帰支援も行っています.女性研究者支援モデルを各機関にご提案いただき,それに対する資金援助も行っています.その上で合同的な会議が必要であり,このようなシンポジウムが大変有意義であります.御尽力に感謝いたします.

(文責 電子情報通信学会 荒川 薫)

 

歓迎の辞  濱田純一氏(東京大学理事・副学長)

上杉道世氏(東京大学理事)に代わり,濱田純一氏(東京大学理事・副学長)により歓迎の辞が述べられた. 「東京大学でこのようなシンポジウムが開催される事を光栄に思います。東京大学では本年4月に男女共同参画室を設置し、総長のもと男女共同参画について積極的に取組み始めております。来年130周年を迎えるにあたり、様々な行事を計画しておりますが、学生をしっかり育てていく事とともに、女性研究者を育てる事にも、もっと力を注いでいきたいと思います。本日議論される事をしっかりと受け止め、本学でも取組んでまいります。実り多いシンポジウムになるよう、心からお祈りいたします。」

(文責 化学工学会)

 

特別講演  阿部博之氏(総合科学技術会議議員)

総合科学技術会議議員,阿部博之氏には30分にわたってご講演をいただいた.その要旨は以下のようにまとめられる.


1.第3期科学技術基本計画と数値目標

・総合科学技術会議は月1回会合を開いておりそのメンバーに猪口元大臣も含まれている.この会は予算を持っていないため具体的な事は各省にリーダーシップをとってもらっている.

・この基本計画の中に博士課程在学者への経済的支援がある.後期在学者の20%程度に生活費相当額程度を支給することを目指している. しかしアメリカの研究大学は100%支援している.いきなりアメリカ並みは無理なので第4期5期ではこの数値を上げていく予定である. また女性研究者の活躍を促進するために,女性研究者の採用目標を自然科学系全体として25%にする,という数値目標がある.

2.世論とパブリックコメント

・東北大学の初代総長が女子学生獲得を目指し次の総長が3名入学させたところ文部省から叱責の手紙が来た. そして当時のマスコミの反応も冷たかった.この時代の日本は良妻賢母が良しとされていたため,文部省の考え方は世論の鏡であった.

・パブリックコメントは非常に大事である.我々の会議はパブリックコメントで出てくる意見のほとんどは議論済みだが,修正検討しなければならない事も時にはある.そしてパブリックコメントで気をつけなければいけないのは,賛成の人はあえてコメントをしないので,意見をする人は反対の人であるという事である.

3.女性と科学技術

<一般論と個別論>

・一般論とはハーバード大学サマーズ学長のような考え方である.

・男子学生でも技術者に向かない人が入学してくる.クリエイティブな事,答えが一つでない事が苦手な人は男女問わず技術者には向かない.興味を持ち,やりたい人が技術者になるべきである.

<研究者と技術者>

・理系の女子学生も少しずつ増えてきている.女子学生がマスターを卒業すると企業に就職する.企業は女性が働きやすいようにグループで仕事をするなど,考えてきているが(グループで仕事をすると出産,育児などで休暇をとりやすくなる),大学の研究者は個人で仕事をしているため個人の問題となってしまい,女性は働きにくい.

4.“子育て”雑感

・若い世代はだいぶ意識が変わってきているものの,まだまだ子育ては母親の一方的な負担になっている.しかし実際の所,父親は夜中まで仕事をし,単身赴任が多く,父親の子育てへの主体的参加は難しい.

・家庭での教育はかなり難しくなってきている.そして学校および教師への過度の期待がある.

・核家族になったのは昭和30年頃からである.それ以前は子だくさんであるため,兄姉が弟妹の面倒をみたり,第三者の育児への参加があったりと,コミュニティーで子育てをしていた.人間が成長し,独創的な研究をするためには昔のように,小さい頃に自分の思い通りにならないことがあることを認識し,甘んじる,耐える経験をする事がよいと思われる.

5.男女共同参画と日本の未来

・日本の技術は今まで他国の後追い,改良改築が中心だった.しかしこれからは日本オリジナルの科学技術,学術文化を構築していく必要がある.そのためには男性中心の世の中から女性を入れた,新しい文化を創っていく必要がある.今は良いタイミングである.そしてこれは日本の未来にとても大切な事である.制度改革に対する意見を寄せて欲しい

(文責 化学工学会)

 

パネル討論
「動き出した女性研究者支援の今と未来」

  コーディネーター

    大隅典子 第4期学協会連絡会委員長 東北大学教授

  パネリスト

    有本建男 科学技術振興機構・社会技術研究開発センター長
    小田公彦 文部科学省 科学技術・学術政策局長
    久保真季 日本学術振興会・総務部長
    北澤宏一 科学技術振興機構・理事
    國井秀子 株式会社リコー 常務執行役員
    有賀早苗 北海道大学副理事・女性研究者支援室長・教授
    束村博子 名古屋大学男女共同参画室長・総長補佐・助教授

  コメンテーター

    阿部博之 総合科学技術会議議員

大隅 挨拶およびイントロダクション

日本は欧米諸国に比べて女性研究者が極端に少ない.横軸を年齢,縦軸を就業人口とすると,諸外国では逆U字型になるが,日本では出産子育てのときに谷間がありM字カーブになる .諸外国では理系の女性割合が学部で50%近いが,日本は約25%で ,当然キャリアに進む人の数が少なくなる.日本では男女共同参画局が内閣府にでき,国として進めつつある.第3期科学技術基本計画に女性研究者の活躍促進が書き込まれ数値目標が出され,モデルとなる取り組みに対する国の支援事業に繋がった.学術振興会では出産育児退職者の復帰支援事業を進めており,JSTも男女共同参画室を本年立ち上げた.研究も育児もあきらめないでキャリアを続ける仕組みを皆さんと考えたい.

有本 (科学技術振興機構・社会技術研究開発センター長)

日本の科学技術のオリジナルな文化を創るには半分を占める女性の参加が必要.総合学術会議のアンケートによると,日本国民が科学技術に期待するのは,環境 ,安全 ,健康であり,科学技術に求める期待,文化が大きく変わろうとしている.研究,教育業界ばかりでなく知識を活用するマーケットを開いていくのは男性だけの発想ではできない.21世紀型の科学者技術者は社会との対話あるいは価値を常に考えながら国民の期待に答える時期に来ており,女性の科学者技術者が関連分野に大きく参入しないと文化はできない.

小田 (文部科学省 科学技術・学術政策局長)

科学技術学術政策局は,総合科学技術会議の考えを受けて実行に移す部門です.我々は今年を女性研究者支援元年と位置づけ,特に人材育成が大きな課題である.日本では大学学部生の段階で男女比が3対1,ヨーロッパでは1対1.つまり日本では高校生の進路の段階で出発点が大きく違う .この出発点の違いを何とかするために,女子中高生理系進路選択支援事業を計画している.国際科学オリンピック支援を,科学技術振興機構を通して行っているが,こういうオリンピックでも女性が活躍できるようにしたい.

久保 (学術振興会 総務部長)

さきほどの就労M字カーブは子育て期で落ち込んでその後戻るように見えるが,戻るのはパートタイムでフルタイムではない.研究者の場合,助手から助教授になるところで大きく下がっており,育児期にやめることが推察される.学術振興会は早くから育児期の支援をしてきた.科研費も中断制度があり1年で80件くらいの利用がある.平成18年度から中断からの復帰を目指す新たな特別研究員事業を設け,各年度30名募集したところ,応募が18年度140人,19年度は212人もあった.ポスドク期に育児休暇制度がなくやめざるをえなかった方が圧倒的に多く,こういう事業が必要と実感した.女子高校生は資格志向が強くキャリアに魅力がないと選ばないので,研究者が魅力的であることを示す必要がある.

北澤 (科学技術振興機構・理事)

科学技術振興機構では,国の政策誘導に従って科学技術全体のシステムを最適化する立場で男女共同参画を考える.さきがけの事業は比較的若い方が多く,女性研究者は比較的若い人が多いので,応募を勧める「さきがけなでしこキャンペーン」をやり,今年は9%から12%まで採用者が増えた.また,職場へ復帰する人の人件費の半額を援助することを開始した .これから一番大きな問題は,ポジティブアクションをとるかどうか.枠を余分に作るなど明確な形で女性採用枠を増やすかどうかが問題.男女共同参画室を作って,外部の有知識者十数名のアドバイザーで議論して今後の方針を決めていきたい.

國井 (株式会社リコー 常務執行役員)

産業界からの唯一のパネリストとして,企業における女性研究者技術者支援と学会に期待することを申し上げたい.私たちは新しい価値を提供して事業を発展させるが,新しい価値を産むには研究開発が重要で,研究者・技術者の男女共同参画は経営戦略として重要である.同質の男性社会だけで世界に対して事業を発展させるのは極めて厳しい.多様な人材を活用して固定観念にとらわれず新しい価値を創造していくには女性が重要だし,グローバルにいいサービス・商品を提供するには人材の多様化が必要.研究開発ではいい人材を確保しないといい研究成果が出ないので極めて重要な経営戦略.厚生労働省の調査では,両立支援をしているところは人材確保・定着に効果があり,意欲を高める.両立支援と人材育成を合わせると非常にいい成果が得られる.我々は80年代から ,育児支援 ,介護支援,経済面援助 ,休暇休職 ,柔軟な働き方の仕組みなどをとり入れている.自部門で ,女性の研究者技術者にヒアリングすると,育児で辞めた人はおらず,続けられた理由は制度ではなく直属上司の支援が鍵だった.キャリアパス構築に向けてやっているのはメンタリングであり ,全社での横断的な活動に女性を積極的に参加させ,視野を広げ人脈を作り成果をアピールする場を作る.グローバルに活躍する場を提供し,ジェンダーフリーのためのプロジェクトにいろいろな人が参加している.専門家の集団であり権威がある学会に期待することは啓蒙活動であり,先導的役割を果たしていただきたい.それから,女性科学者技術者のネットワーク作り,世界に通用するロールモデルを作ることが非常に重要.

有賀 (北海道大学副理事・女性研究者支援室長・教授)

私たちは「輝け,女性研究者 活かす,育てる,支えるプラン in 北大」ということで提案してきた.現在,北大の女性教員は7%.数値目標は20%by2020である.女性研究者支援室を新設し環境整備をすることと増員の2つを考えている.このままでは数が増えないのでポジティブアクションを行わなくてはいけない.しかし,専用ポストを作るのは女性側からも抵抗感が大きかった.そこで ,定員管理から人件費管理に移行し,部局管理分と全学運用分に分け,女性教員を採用した場合に限り4分の1を全学運用分から部局に補填することにした.いい女性がいなければ女性を取る必要はない.でも,いい女性もいい男性もいたときには,どちらかといえば女性を採用しようというインセンティブを与えられる.もう一ついいところは,今まで女性を増やすというと助手が多かったが,4分の1を補填するので部局としては教授で雇った方がご褒美が大きい.

女性研究者のパートナーの半数以上が研究者なので,女性の研究者を支援するときにどちらかが北大にきたらパートナーも北大にポストを得る制度,キャリアを継続しながら子育てもできる制度を作りたい .女性研究者が少ない間は孤立しないように,ロールモデルが必要.手が届かないアンビシャスモデルではなくフレンドリーモデルなど,多様なロールモデルを紹介すること.学生たちにはライフステージパスを提示すること.女子中高生には私たちが伝えるのではなく中間の女子学生 ,大学院生の生き生きした活躍を見て,縦のつながりで悩み楽しみながら進んでいく流れを作りたい.

束村 (名古屋大学男女共同参画室長・総長補佐・助教授)

名古屋大学の男女共同参画の推進体制は総長主導のトップダウンで非常にアクティブにやっている.平成13年から毎年1回男女共同参画推進のための部局長ヒアリングを実施し,毎年女性の採用の数値目標をたててもらっている.少なくとも年に一度考える機会があることで,人事のときに少し意識するようになる.取り組みの鍵はアンケートである.事を起こそうとするとデータがあるか必ず聞かれるので ,例えば,学内保育が大事か学生にアンケートしたところ,約84%が好ましいという回答,さらに推定50名の希望があり,保育園を作った.全学の公募にポジティブアクションを明記している.逆差別という意見もあるが,詳細な説明を書いており,法律的問題も無いことを検討してあるので参考にしてください.ポジティブアクションは絶対数を広げることがまず大事 .女性の方から反対が出て来るのは ,たぶん心ないことを言う人が周りにいるためで,最初から数が少ないのはおかしいと言ってあげれば賛成してくれると思う.

 

<パネルディスカッション>

司会 大隅典子

阿部博之 イノベーションとは,基礎学問に裏打ちされた新しいものを,時間をかけて創ることであり,男女が協力して多様性のある科学技術文化を築いていく必要がある.また,女性研究者が少ないというデータを示し続けて,継続的に施策を実行することが必要であるが,一方,行政だけに頼らず各事業所も個別の対応を忘れないでもらいたい.たとえば科学系研究者の在宅勤務やメンター制度を進めるには意識改革が必要になってくる.

大隅 有本さんのほうに,女性研究者支援元年というのは何年もかかってこういう時代にこぎつけたという感想,もっとこういうことをやるべきだというコメントを.

有本 政府は毎年各事業所の参画データを収集して公表することが内閣基本計画閣議決定文書としてあるので,必ず継続的に実現してほしい.また,各事業所は具体的なロールモデルとして“歴代女性100名”といった企画を実現してもらいたい.更に,制度と個人のバランスを保ちつつ施策に結びつけるためには情報の収集分析が必要で,全国的なネットワークの構築をJSTで行ってもらいたい.

小田 女性研究者の参画は,日本が国際競争力を獲得するために多様性ある優秀な人材を確保し育てるという大きな視点から必要である.

大隅 JSPSが柔軟に制度を変えて仕組みをつくってくれたが現場の研究者に届いていない.たしかに産後復帰支援等応募者は多かったが,現在Mの谷間にいるひとにどうやって情勢を伝えていけるかメディアの方の力など借りないといけないかもしれない.

久保 ネットワークを構築し,メディアの力も借りて新しい制度を広報する必要があるが,産後復帰支援策は補足的なもので,本来は辞めなくて済む制度・組織作りが大切である.

大隅 JSTには違った観点があるのでは?ガラスの天井というか,仮に若い女性研究者が増えたとしても上位の職に就くのが難しいということがある.

北澤 基本的には科学者のコミュニティーが自らを律するときは学術振興会で,国として社会のニーズからの政策誘導をするときは国から委託されるのがJST.

 男女共同参画のポスドク以降の職についてはポジティブ(アファーマティブ)アクションが必要で,科学技術振興機構の男女共同参画室のアドバイザーがJSTに答申し,文科省が施策としてJSTに委託するという流れの中で実現していきたい.

大隅 国だけでなくボトムアップ的に何かできる取り組みもあるかもしれない.

 企業から大学 学会に何かご意見があれば.

國井 大学全体の制度整備が必要でジェンダーフリーセミナーなどの啓蒙活動,女性の昇進・活用に関して人事権を持つ管理職の取り組みに関する面談,数値目標・具体的指標を持つことなどが重要であろう.

大隅 大学の現場からのご要望とか学協会への意見など.

有賀 病気や出産は計画できないので,振興調整費に柔軟な運用方法を認めてほしい. また,育児・介護を正当に評価するような意識改革が男女ともに必要で,女性の活躍について次世代を担う学生に伝えていかなければ社会通念は変わらない.

束村 「3K」の大学教員は女性には大変という無意識の女性排除があり,これは男子学生にとってもポストに対する魅力を低下させている.ポジティブアクションは,研究者の半数が女性でないことがおかしいということを伝え,現状を是正するためには必要である.

大隅 総論女性研究者大賛成,各論反対というケースは多いかもしれない.

フロアからの発言

東京都臨床研 山岸
若手支援だけでは研究力が低下するおそれがあり,女性の研究者が男性と同数になるまでは年齢制限を解除してほしい.

東大人工物工学センター 大武
元気な先輩たちに勇気づけられた.育児・介護により仕事が進まないという前提はおかしい.ここにサービスサイエンスの新たなテーマがあるかもしれない.

(文責 発生生物学会 野呂千加子)

 

全体会2

司会進行 平田たつみ氏(日本神経科学学会)

連絡会活動報告

大隅典子委員長より,第4期の活動は,第1期から第3期までの蓄積をもとに,以下のような活動をおこなってきたことが報告された.

2ヶ月に1回運営委員会を開催している.連絡会主催行事として,次世代支援事業である「女子高生夏の学校」を,8月に国立女性教育会館の協力と文科省の支援のもとに2泊3日で行った.さらに本シンポジウムの開催,各種行事の共催,後援をおこなった.

提言として,6月1日に科学技術振興財団「女性研究者支援モデル育成」事業の募集継続と予算枠拡大,およびその他の必要な施策等の実現に関する要望を小田局長に提出した.研究を中断して復帰する,というよりは,オリジナルな研究を続けていくことが重要であるので,研究者の現状に見合った育児支援の拡大と,男女の処遇差の改善を望む.

連絡会に加盟している学会で,女性の比率がどのように推移したかを調査した.会長,副会長,評議員等に占める女性の比率,男女共同参画に関するワーキンググループなどの有無,とくに2002年に連絡会ができたことで何か伸展がみられたか,ということを中心に行なった.

分子生物学会では学振のRPD制度について,1300名からweb回答をえたので,12/6~8に学会フォーラムで発表予定である.

猪口大臣,小田文部科学省学術政策局長,松田大臣に挨拶と面談を行った.

第5期にむけての要望は,連絡会は多様化し加盟学協会は約50まで増加したことから,経済的基盤を考えねばいけない時がきているのではないかということ,中学2年生からみた理科の学習について平成12-14年の文科省の調査結果では,両親よりも学校の先生が大きな影響をあたえているということがわかり,今後の改善と対策が必要と思われることである.

新規加盟学会紹介

新規加盟の5学協会,日本育種学会長 谷坂氏,日本地球惑星科学連合総務委員長 中村氏,日本繁殖生物学会理事 白田氏,日本結晶学会 神津氏,日本科学者会議 役事務局長からそれぞれ挨拶があった.

分科会報告

分科会報告参照

(文責 日本生理学会 宮坂京子)

ポスター賞報告

ポスターセッションは山上会館2階のロビーを会場として,17の学協会の活動紹介と振興調整費による「女性研究者育成支援事業」を実施している10大学の取組み紹介および連絡会が主催した2006年度「女子高校生夏の学校」について発表があった.発表した17学協会は,応用物理学会,日本宇宙生物科学会,日本化学会,日本原子力学会,日本生物物理学会,日本蛋白質科学会,日本生理学会,日本動物学会,日本物理学会,日本女性科学者の会,電子情報通信学会,日本森林学会,日本神経科学学会,日本地球惑星科学連合,日本金属学会,土木学会,日本分子生物学会である.また,10大学は,東北大学,京都大学,早稲田大学,奈良女子大学,日本女子大学,熊本大学,御茶の水大学,東京女子医科大学,北海道大学,東京農工大学である.

ポスター発表する学協会や大学への連絡,ポスターボードの準備などほとんどの事前準備は,日本分子生物学会事務局のスタッフの献身的な貢献による.ポスターセッションでは,第1回シンポジウムからポスター賞をもうけている.今回は昨年と同様,17学協会の発表を対象とし,最優秀賞,優秀賞(2学会),ビジュアル賞,ユニーク賞,ユーモア賞をポスター賞選考委員(日本生態学会,日本蛋白質科学会,土木学会,日本植物生理学会,生物物理学会.バイオイメージング,日本育種学会)の投票に基づいて選定した(投票箱を受付に設置).日本宇宙生物科学会は最優秀賞とユーモア賞のダブル受賞となった.優秀賞は,日本化学会と日本動物学会が,ビジュアル賞は日本物理学会が,ユニーク賞は日本原子力学会がそれぞれ受賞した.また,最優秀賞の副賞として小さい花束を贈呈した.

(文責 日本生態学会 可知直毅)

次期幹事学会会長挨拶  美宅成樹(生物物理学会長・名古屋大学教授)

生物物理学会は3000人を少しこえる程度の学会であるので,委員会やワーキンググループが実務を引き受けるのではなく,会長がひきうけることになったこと,研究には夢があるという前提にもかかわらず,女性研究者にはいろいろな事情があって,継続することが難しい.改善のためにできるだけ提案をだしていくように努力したいという旨の挨拶があった.

(文責 日本生理学会 宮坂京子)

閉会挨拶  大坪久子(シンポジウム実行委員長)

3期までの学協会連絡会は,女性研究者をとりまくひとつひとつの問題点を突破するために,大規模アンケートを行い,そこから得られた現状分析にもとづいて提言・要望を作成し,第3期科学技術基本計画に盛り込まれるよう行政に働きかける,つまり研究現場と行政の間のパイプ役をはたしてきたといえます.その後を受けた我々第4期には,本年からスタートした国の「女性研究者支援策」がどのように実施され,どのように定着するかを見極める立場にありました.同時にこのような施策が,研究現場に広く周知されるようつとめる役目もあったといえます.このような考え方で設定した第4期シンポジウムでしたが,未曾有の豪雨の一日にもかかわらず,200名近い参加者を得て,盛会に終えられたことを心より感謝いたします.久々の3会場同時進行の分科会もそれぞれ意義深いもので,今後の発展につながるものと確信しています.連絡会のよいところは,1年毎に幹事学会がいれかわるという点で,それぞれのキャラクターで運営されているということにあります.しかし忘れてはいけないことは,今研究現場がどうなっているかを常に正確に把握し,行政に反映できるよう勤めていくことに尽きると思います .その役割は,時にはボランテイアの域をはるかに越えることもあります.加盟各学協会の皆さまが第5期幹事学会(生物物理学会)をもり立てて次の1年を乗り切っていただきたいと思います.

 

連絡会ポスター展示

なお、最新の女性研究者支援事業関連のポスターについては、下記にて PDFファイルを公開中。
 
(日本分子生物学会2006フォーラム(2006年12月6日~8日)において掲示されたもの)
http://annex.jsap.or.jp/renrakukai/documents/index.html

参加者の声

男女共同参画連絡会シンポジウムに感謝,そして,お願い
 
大学と社会の未来を考えた時,女性がその力を存分に発揮していくこと,まだ男女ともにその働き方,暮らし方を見直すことは不可欠な課題となっている.その意味からも,本年度の科学技術振興調整費の「女性研究者支援」は,重要な意味を持つ.その際,文科省生涯学習政策局の「女性のキャリア形成事業」等でも考えた事であるが,「女性支援」の事業は個々の大学,機関で出来ることには限界がある.各大学,機関,施設等でいいアイデアがあっても,まだまだ個別に動いている感があるし,有効な連携と協力があれば,としばしば思う.

そんな折,今回の男女共同参画連絡会シンポジウムの呼びかけと企画はタイミング,内容的に本当にありがたいものだった.各大学,機関が智恵を絞った研究者養成,次世代育成と介護,ワークライフ・バランス等に関する具体的なアイデアの数々を共有することが出来たし,当日の会場の満室と時間を超過する質疑は関心の高さを示していた.

そこで,お願いと提案をひとつ.教育・研究における男女共同参画については,風の変化も気になるし,これからさらに「実績」をつくっていく必要を感じる.今回,貴重な機会をいただいた事務局の方々に感謝するとともに,今後,セッションに参加した10箇所さらに連なるが大学・機関が協力,発展するための連絡会を提案したいと思います.

矢口徹也
早稲田大学 女性研究者支援事務

 

学問が多様であることや大学が個性豊かであることは,学術研究の発展および若い研究者の飛躍に取って重要なことと思います.その点で,第4回学協会連絡会シンポジウムでは,多様な学協会の事情や大学の実情を知ることができ,それぞれの特質に合わせた取組の実例を知ることで,きっと本学でも細やかな対応策の実現につながるものと,ヒントを得ることができました.各学協会・各大学の特質に合わせた取組が軌道に乗りつつある今,それぞれの活動によって得られた成功例あるいは,活動の過程で明らかになった問題点などを定期的に議論するこのような機会をまた設けることは,多様なモデルを作るのに重要であると感じました.

田賀哲也
熊本大学発生医学研究センター

 

東北大学の「杜の都女性科学者ハードリング支援事業」は,(1)育児・介護支援,(2)環境整備,(3)次世代支援の3つを柱に,女性研究者が活躍できる環境整備に取り組む.次世代支援プログラムとして「サイエンス・エンジェル(SA)制度」を発足した.科学に関わる仕事をしている女性が身近にいない,具体的なイメージが湧かないなどの理由で,理系進学をためらう理系少女に科学の魅力を伝えるために,東北大学で科学研究を行う女子大学院生から選抜されたSAを,全国の中学・高校へ派遣する.「心細いこともある.でも,研究で新しい発見をする喜びは,それに優る.この感動を皆に伝えていきたい」が,任命式におけるSA代表の挨拶であった.

学協会男女共同参画シンポジウムでは,2名のSAが事業内容紹介のポスター発表を行った.ポスター作成から,発表の内容まで,SA自身で行った.発表は好評で,早速,科学未来館から,講演依頼を受けた.SA制度は,理系少女の啓発と同時に,任務を通して,SAの科学者となる自覚や使命感を熟成することも目的としている.SAは今後,プレゼンテーション研修や,科学コミュニケーション能力を向上するセミナーも受講する.当初,予想していた以上に,しっかりとした意志を持ち,積極的に意見発表をするSA達に,手応えを感じている.

小谷元子
東北大学大学院 理学研究科数学専攻

 

採択された10大学全てのポスターが一堂に会することによって,いかに多彩な支援策があるか,がよく分かりました.規模や組織編成,現状が異なれば,支援策は異なるという当たり前のことを,認識していた人は少ないのではないかと思います.

どのくらいの規模の大学のどのような組織にどのような最重要課題があり,それに対してどのような支援策があるのか,各大学の支援内容を見比べることによって,他の大学や組織は"自らに最も有効な支援策"が何かを再検討する良い機会になったと思います.私自身も奈良女子大学の取り組みを紹介することで,本学の長い歴史・伝統や「古都・奈良」という立地条件,女子大学である,という特徴の長所・短所を再認識し,女性研究者支援の立場から見た最も有効な(もしくは最も求められている)支援策が何かを考える機会をもつことができました.特に,卒業生=豊富な人的資源は本学にとっての強みなのだと確信しました.

また,小規模な大学であることは予算面などでデメリットが多いと思われがちですが,小回りがきくことや全体の様子が分かりやすいなど,女性研究者支援の側面から見るとメリットの方が多いのではないかと感じました.

今後も各大学や組織が,それぞれの取り組みの進捗状況について情報交換する機会があれば,互いに参考となり,良い刺激になると思います.今回のような発表の機会が継続して持たれることを希望します.

松岡由貴
奈良女子大学理学部物理科学科

 

4回学協会連絡会シンポジウム‘育て!理工系女性研究者支援の新しい波’に,平成18年度科学技術振興調整費・女性研究者モデル育成に採択された大学の一つとして,ポスターセッションで東京農工大学の『理系女性のエンパワーメントプログラム』を発表させて頂きました.男女共同参画を推進する多くの学会や団体の取り組みについてのポスター展示もあり,ポスターの前にお集まりいただいた皆様方が非常に熱心で,質問やディスカッションも活発に行うことができました.また,全体会‘動き出した女性研究者支援の今と未来’や,午前中の分科会‘女性研究者支援,有効な支援をめざして’などにおいて,他の大学での取り組みについての実務レベルでの話を伺うことができて,非常に勉強になりました.また今後も参加させていただいて,各大学・団体の先進的な取り組みについてアイデアを頂きたいと考えております.

秋田カオリ
東京農工大学
女性キャリア支援・開発センター
専任コーディネーター

第4回男女共同参画学協会連絡会シンポジウム「育て,女性研究者!!理工系女性研究者支援の新しい波」に参加して

今年のシンポジウムは,例年にもまして,熱気にあふれていた.これは,シンポジウムのタイトルにもあるように,理工系女性研究者を支援する動きが各方面で活発化したことと関係があるだろう.特に,文部科学省・科学技術振興調整費による「女性研究者支援モデル育成」事業は,たくさんの大学や研究機関に,女性研究者をどのように支援できるか,あるいは支援すべきかを考える良い機会をつくってくれた.本事業に採択された10大学からのポスターの前に立つ,若手女性研究者は,いきいきと輝いて見えた.理工系の女性研究者はまだまだ少なく,研究環境は整っているとは言い難い.しかしながら,少なくとも,理工系のプロフェッショナルとして生きようとする女性が,自己実現しつつ社会に貢献できる環境が整いつつあるようだ.そもそも,男女の違いは,生物学的に言えば,たったひとつのY染色体(たった46分の1染色体)に端を発する.IQにも男女差はない.女性の能力を生かし切れないのは,社会の大きな損失である.近い将来,「男女共同参画」が死語になり,性別によらず,個性で輝ける社会が実現することを切に願うものである.

束村博子
名古屋大学男女共同参画室長
男女共同参画担当総長補佐

 

昨年,どんなもんかなあと初めて参加した第3期学協会連絡会シンポジウム,主催者や参加者の熱気に覗き見気分は吹き飛んで,これはちゃんと勉強しなくちゃいけないなと思いました.札幌に戻って北大の現状を改めて見回し,必要なこと,出来そうなことに思いをめぐらせて,夜な夜な振興調整費への応募案を考えたことが,随分前のことのようでもあり,つい昨日のことのようにも思えます.

嵐のような風雨の中,今年の第4期シンポジウムには昨年を上回る熱気が溢れ,様々な研究分野で女性の活躍促進に取り組む熱意ある女性たちと,総合科学会議や内閣府,文部科学省,JST,JSPSなど,女性研究者を取り巻く重要ポジションの方たちがたくさん参加されて,率直な意見交換が出来たことは大変有意義であったと思います.

「やらせ」や「やらされ」ではなく,苦難はあっても「やってみよう」という女性たち,その気持ちを具体化する機会を「やらせてみようじゃないか」と期待を込めて作り与えてくださる方たち,どちらも本気で前向きなことが伺えて,とても嬉しく心強く思いました.自らのわずかな体験と,関わり始めたばかりの支援活動の中で,女性研究者の情況改善のために必要なのは,自分で何とかしようという気持ち・行動と,その思いに気づき,理解して応援してくれる環境だと感じています.北大でもまさに,私のような一教員の提案に耳を傾け,早速ポジティブアクションの実施に向けて動いてくださった総長・副学長の英断に感謝しています.

東京生まれ,東京育ちの私が,縁あって北大での女性研究者支援に取り組んでいますが,中央にいた時には当たり前のように思っていたことが,東京から遠く隔たった地方では大変な努力を要するなど,思いがけない違いがあります.女性研究者支援が中央集権にならないように,地方の抱える問題点もきちんと伝えていきたいと思っています.学協会連絡会が理工系学協会横断的に調査したアンケート等をもとに要望書を作成・提出し,それが科学技術基本計画やRPD制度などに反映されたように,北大も学内だけでなく行政・他大学など学外にも多様な支援ニーズと対応策を発信していきたいと思っています.

有賀早苗
北海道大学 女性研究者支援室長・副理事

 

女性のエンパワーメントは日本の研究全体を発展させる
 
あらゆるレベルにおいて,女性のエンパワーメント及び地位向上を促進するであろう効果的,効率的,かつ相互に補強しあうジェンダーに敏感な開発政策及びプログラムを含む政策及び計画を,女性の完全な参加を得て,立案,実施,監視することが必須である.」これは,1995年の第4回世界女性会議が指摘した宣言の一節である.そして,第3期科学技術基本計画には,この概念が組み込まれ,女性研究者の登用が記載されている.女性は,人口ではむしろ多数派であるのに,外国人,高齢者と並列に取り扱われているのでは,まだまだこれからだなと思っていた.

しかし,今回の「男女共同参画学協会連絡会シンポジウム」に参加して,すでに各研究機関や学会が,女性研究者のエンパワーメントに取り組んで,実績を出していることがわかり元気がでた.私の考えが遅れていたようだ.

多方面で活躍する女性研究者が集う会議は,私たちを励まし,具体的な方向性を見せてくれる.私たちが自らの職場や生活環境を向上させるために活性化するならば,その力は男性研究者を含めた日本の研究全体に波及し,世界における日本の学術研究のレベルアップが期待できるはずだ.そのためにも私たちのような研究職をすでに獲得した人間だけでは,なんとももったいない.取り組み内容に,もっと男女問わず,大学院生やポスドクの顔が見える参加があればと思う.彼らが,直接,恩恵や啓発を受けるべき人たちなのだから.

私の所属する神戸大学でも,男女共同参画支援室が4月より発足する.これまでキャリアサポートで,女子学生たちに社会とのコミュニケーションの機会を与えてきたが,これからは,学長,理事,学部長などのお偉いさんにレクチャーが必要かもしれない.当方ではこれからがスタートであるので,10大学の情報を参考にして,一歩ずつ進めていきたい.

近江戸伸子
神戸大学発達科学部

 

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